第2話 好奇心と夢心地
それは気まぐれ、そう、一瞬の気まぐれから僕は近づくだけでなく、自然と鏡に手を伸ばしていた。
そうして、指先が鏡に触れた瞬間、鏡面が揺らいだのにきづいた。
目の錯覚とも思える現象に、触れた手を鏡から放して思わず目をこすった。そして、再び鏡をみると鏡面はまだ小さく波打っており、映る僕の姿はグニャグニャと形を変えていた。
まるで水面を目の当たりにしているかの様であり、夢でも見ているような現象を前に、僕は再び鏡に触れたくなった。
すると、やはり鏡は再び揺れ動いた。温度のない水の中に手を付けたかのような感覚、僕はその不思議な鏡に内なる好奇心がうずき始めた。
もはや、内に秘めておくことができない好奇心はさらに膨れ上がり、僕は半端に突っ込んだ手を鏡の中に思い切り押し込んだ。
すると、僕の手はどんどんと吸い込まれていくように鏡の中へと入っていった。あまりに衝撃的な現象に、どういうわけか笑いが込み上げてきた。
「あははっ」
鏡の中は、何とも言えない感覚で手をどれだけ動かしても何かにさわれるというわけではなかった。
だけど、どこか心地いいというか、ずっと手を入れていたくなるようなそんな気分でしばらく鏡の世界を楽しんでいた。
そうしたところで、僕はふと『この鏡の中に入ったらどうなるのだろう?』なんてスリルに満ちた考えをしてしまった。
好奇心というものは、人間をこうも狂わせるものか、と、抑えるどころか好奇心に飲まれた僕は、勢い良く鏡の世界へと飛び込んでみようと思った。
なんてバカな思考だと思いつつ、ワクワクしていたその時、鏡の中に入っている僕の手は何者かによってつかまれた。
「えっ・・・・・・!?」
突然つかまれた感覚と共に、恐怖心がバクバクと襲い掛かり、僕はどんどんと鏡の中に引きづりこまれそうになっていることに焦った。
あまりに突然の出来事に、声も出せずに何とか抵抗してみたものの、重心がのっていない体は、あっという間に鏡の中へと引きずり込まれてしまった。
思わず目をつむり、真っ暗な世界になったと思った瞬間、僕は地面にぶつかる感覚に目を開いた。
ひんやりとした感覚、ジャリジャリとしたものを肌で感じは、信じられないほどに気持ち悪さを感じた。
目の前には外と思われる景色が映っており、そして自分自身が地面に寝そべっているということに気付いた。
すぐさま飛び起きて辺りを見渡すと、間違いなく外の景色が広がっていた。
サラサラと水の流れる音、ザワザワと聞こえる人の声らしきもの、さっきまで薄暗い倉庫の中で、不思議な鏡と戯れていたはずなのに、一体どうしたというのだろう?
明らかに異常事態である状況の中、周囲の状況を見渡して、橋下と思われる場所から抜けると、まぶしいほどの太陽に照らされた。
目を覆いたくなるほどの直射日光に耐えながら近くにある階段を上ると、そこには多くの人で行きかう街並みが目に入った。
どこか洋風な街並みが目に入り、行きかう人々も様々な人種の人たちばかりの様に思えた。
それは、間違いなく僕の住んでいる街の光景ではなく、さっきまで家にいたはずの僕がいるはずのない場所だった。そうして、混乱する頭の中で一つの結論が浮かび上がってきた。
これはつまり、鏡の中の世界ということでいいのだろうか?
いやいや、そんなわけがない。だって鏡の中に世界になんて存在するわけが無い、そんなのおとぎ話の中だけだ。
そもそも、鏡の中に吸い込まれること自体おかしなことであって、これはおそらく夢か何かを見ているに違いない。
そう思い、僕はすぐに頬をつねった。だが、何も起こらない。どうやら夢ではないらしい。
何はともあれ、とにかく今はこの場所がどこなのか、そしてどうやったら元の世界に戻れるのかということを考えなきゃいけない。
そう決めた僕は、再び橋下に戻った。
だけど、橋下に戻ったところで、あるのは頑丈そうな橋と川が流れているだけ、どこにも鏡とつながりそうな場所はなかった。
しかし、どうしても元の世界へと戻りたい僕は、目を覚ました場所をたたきながらどこかおかしなところがないかと探ってみることにした。
鏡が揺らいだんだから、壁だって揺らいでくれてもいいだろう、と、もう望み薄な期待を心に秘めながら、硬い壁や床を何度かたたいてみた。
だけど、どうにもこうにもただの壁、揺らぐのは僕の心ばかりだ。
「ど、どうしたらいいだろう」
思わずそんな言葉を言いたくなるほど追い詰められた中、突然、声が聞こえてきた。
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