未知の世界

山野 樹

第1話

どうやっても僕には持ちえないもの。


その尊さをきみは知らない。きみを見ていると、僕は肺の奥の中心がさらに奥へと引っ張られて、別な次元へ吸い込まれてしまいそうになる。ぱんとはじけて、消えてしまいそうになる。


つぐんでいる方が楽だった。ひそめている方が楽だった。だから僕はそうしたんだ。


誰ものぞくはずのない小さな穴を、きみは覗き込んでしまったの?空っぽだったはずの小さな穴に、何を見てしまったの?


見つけないで欲しかった。僕も知らなかったんだから。いや、知らない方が楽だとわかっていたから。


でも、きみは本当にやすやすとわけもなく、石ころでも見つけるような気軽さで見つけてしまったんだ。できるかぎりの汚れた言葉と乱暴な思いで塗り固めて、二度と見ないようにしていた僕の穢れに。


もう、これからどうしよう。僕は。


きっと、もう、黒い涙が止まらない。


あの時効いた言葉と思いは、きみの前では力を失う。汚い言葉も乱暴な思いも、本当は熱がないことが暴かれて、形を保っていられない。もう、剥がれて真っ黒な生身の僕だけが、きみの前にさらされてしまうんだ。


あぁ、でも、この身軽さはなんだ。鎧だと思っていたものはなんだ。穢れだと思っていたものはなんだ。


きみの手はこんなにも絶望と希望が漂う未知の世界へ、僕を引き入れてしまったんだ。

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未知の世界 山野 樹 @kokoro7272

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