タランチュラ・メソッド

釣ール

牙の改革

 使いの蜘蛛くもを一匹、人間の住む部屋へ送った。


 糸を通して「インターネット」や「テレビ」の単語を覚えて以来人間の暮らしを習得している。


 飼いグモと呼ばれ、開放的な庭から逃げないよう管理されている。

 そこは広いだけで隅に当たれば実は広い世界の一部でしかない絶望を知るだけとなる。


 飼い主が言っていた。

 かつてオープンワールドと呼ばれたゲームのことだ。

 広いだけの箱庭で奥へ行けば先は見えない壁に当たる。


 人間は管理が好きな習慣を持つ嫌な生物だ。


 私も糸と牙で地中を掘り深く巣を作り、周りは網で包んでいる。


 本来はタランチュラと呼ばれる生物である私は本来仲間が住んでいる場所から隔離され、人間と強制的に住まわされ暮らしている。


 毛には外敵にかゆみや痛みを与える武器があるが人間の撃退には及ばない。


 本来のタランチュラはどのように暮らしているのだ?

 私達の仲間は?


 大方現地の人間に焼かれて食われて終わりだろう。


 選択肢はどれも死ばかりが待っている。

 いや、生は少ない。


 この牙で飼い主を倒す?

 そんな蜘蛛はフィクションにしかいない。


 図体がでかいだけの奇異な蜘蛛。

 知らない遠く場所にいる仲間はそうは思わないだろうが、私が住む世界ではそれが一般的になってしまっている。


 哀れだ。

 生きているだけで哀れ。


 今日も行きた飯が現れる。

 その時だけ牙を剥くのだ。


 この食欲も作られた本能かもしれない。

 そうためらいつつ獲物に無慈悲に牙を剥く私だった。

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タランチュラ・メソッド 釣ール @pixixy1O

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