第124話 首の皮一枚
ええと……大変に申し訳ございません。
今度は帝国城で非常事態を告げる鐘をガンガンと鳴らさせ、神託が下るレベルの大騒ぎをまた起こしたと言う事で、俺はただ今拘束されております。そりゃあ衛兵をしこたま傷つけたので当然だと思います……セイのクソ野郎め!今からでも死体を掘り起こして俺の知る限りの拷問をしてやりたいくらいだ。
そもそも全身に包帯が巻かれている所為で身動きが全く出来ないし、視線で会話する事が精一杯の現状です。視線で文字盤から文字を選ぶ、アレです。
……何でも全治半年だそうで、生きていて意識があるのが奇跡的だって宮廷医師達から驚かれました。眼球が無事でまだ良かった、らしいですよ。
うん、体中をこんがりと闇魔法で焼いて意識を取り戻したから、俺が一番に分かっているけれど。
でも、まさか……ハイ・ポーションの最初の臨床実験台に俺がなるとは思ってもいなかった。大やけどのため、ハイ・ポーションが無かったら死んでいたそうです。素晴らしい有効性と有用性に宮廷医師達が感動していました。実験台にされたのはどうにも納得出来ないけれど、効果効能には納得するしかない……。
「正直、ヤヌシア州での君の功績が無ければレーフ公爵家を取り潰さなければならない所だった」
本当に申し訳ございません……フラヴィウス皇太子殿下。
あれ、そう言えばヤヌシア州で俺はどんな功績を挙げたんでしたっけ?
「……。主立った功績だけで治安の回復と魔人族の平定だ。君のおかげでやっとヤヌシア州がまともになりつつあるとルキッラ総督達からも助命嘆願があった」
『も』?他に……誰かいましたっけ?
「……。カルス大公家、フェニキア公爵家、デルフィア侯爵、ヴェネット家はすぐに納得も出来るだろう。ユィアン侯爵家も君にとても同情的だ。だが誰よりも魔人族が君を罰すれば再び暴れると総員で息巻いているのだよ。平定に当たって協力的だった者に市民権を与えたと言う名目で上手く帝国の統治下に組み込めたのに、早速に暴動を起こされては流石に堪らない。それに……彼らから手に入るハイ・ポーションが今後の帝国にとってどれほど重要かを判断しただけだ」
ありがとうございます、後……本当にすみません。
「いや、私はあくまでも政治的に判断しただけだ。それに……」
え、まだ何か理由が?
「あのカルス大公家の令嬢がオーガ族の族長に嫁いだのは知っているだろう」
まさかもう引きちぎったんですか!?ストラトスーーーーー!!!
「いや、無事だ。だが……ここだけの話、私や陛下はカルス大公家のオデュッセウス君を次の皇太子に据えようと考えているのだよ。この人選には、皇太后様も納得されている」
あっ。
「未来の皇太子の血縁上の義兄が魔人族なのに……もはや蔑ろにする訳にも行くまい」
なるほど、そう言う政治的な思慮もあってなのですね。
「ああ。実際、金と縁故でどうにかなる問題なら、それで片付けてしまうに限る」
とっても同感です。
「カイン様のいらっしゃるお部屋はこちらですの?」
げええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?!??!
もう来たの!?
地獄耳じゃねえか!
あれから3日しか経っていないんだぞ!?
情報が行くだけでオクタバ州の州都アーギュなら軽く1.5日以上はかかるんだぞ!?
どうやって来たんだよ!!!?
『ほら、貴様の可愛い激重暗黒爆弾が来たぞ』
『カイン、助けて、ちょっとだけで良いから入れ替わって!!!』
『怖いから断る』
「あら、先客がいらっしゃるのですね。ええ、幾らでもここでお待ちしますわ」
フラヴィウス皇太子殿下はサッと椅子を立って部屋を出て行った。
嫌だああああああああああ!行かないでえええええええ!!!!
悲鳴を上げたくても、口の中に医療器具をこれでもかと突っ込まれていて声が出ない事に俺は改めて絶望した。
「デルフィア侯爵令嬢、待たせたな。婚約者を見舞うと良い。だが重傷なので……」
「皇太子殿下、重々承知しております。負担にならぬように致します」
「うむ。では失礼する」
「偉大なる帝国に栄光あれ!」
そして――見とれるような美しい微笑みと同時に鬼女のごとく恐ろしい気配を漂わせて、オリンピアが出現したのである。天国と地獄が仲良く手を繋いで、俺に『こんにちは!』と満面の笑みで挨拶したのと何も変わらなかった。
『ジン……さらばだ……貴様はそこそこ良い男だった……』
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