第83話 将来、何をしたいですか
俺達の卒業まで残り半年となって、最後の休みである秋の長期休暇をどう過ごすかについて俺達が雑談していた時だった。
「俺は士官学校に入るための勉強と鍛錬漬けだ!」
目指すは将軍!のレクスは意気込んでいる。コイツなら立派な将軍にいずれなるだろう。
「そう言えば出会った時からなりたいって言っていたっけ……」
「そうだ!皇太子殿下からも、『君は必ず立派な将軍になる』と言って貰えたんだぞ!」
「凄いね!いつお声がけいただいたの?」
「児童園に入った日だ!」
――そう言えば、初日にフラヴィウス皇太子殿下が児童園を訪問してくれたな。
その時から、レクスはずっと頑張っていたのか。
「僕もレクスなら立派な将軍になれるって思うよ」
「ありがとうな!ところでヴァロはどうするんだ?」
「実は、ユィアン侯爵家の代表としてビザントゥムへの長期留学の話が持ち上がっているのである」
ヴァロも……留学の話が振られるくらいに、成長したんだよな。
「何年行くんだ?」
「およそ3年である。テオドラ嬢とも話した上で決めるつもりなのである。……カインは決まっているのであるか?」
「僕は、ヤヌシア州の執政官になりたい」
「「!」」
未だに貴族派の腐敗の温床になっていて、唯一、治安が保たれている州都テーバーイから一歩出れば例え魔法が使える貴族であっても何が起きるか分からない恐ろしい場所。しかもしょっちゅうオーガ族が襲撃してくる。元々が山が多くて、平地が少ない土地からあまり農業生産性も無くて、人々は基本的に飢えている。
唯一の命綱は海に面していて漁業がまあまあ盛んな所だが、冬にはほとんどの港が凍ってしまう……。
そんな悲惨な現状だから、赴任した執政官も数週間、長くて数ヶ月で交替してしまうのだ。
唯一踏ん張っている総督のルキッラ皇女とボイオン大公も、そろそろ限界で疲弊しきっているらしいとガイウス殿下が本当に心配していた。
「どうしてだ。カインならもっと良い州の執政官になる事だって夢じゃないぞ!」
「そうであるぞ、カイン!君には領地経営の腕もある、先見の明もある、何なら財産もある!ヤヌシアに行って大損をする必要は何も無いのであるぞ!?」
「大損じゃないよ。儲けて帰ってくるつもりだから」
俺は、そのためにこの数年かけて準備をしてきたのだ。
「……儲けて、だと?」
「到底、正気だとは思えないのである……だが、カイン。君には……」
レクスとヴァロは、あの時計塔や、魔幸薬の香水の件を思い出したのだろう。
「カインなら……やれるかも知れない」
「……うむ、確率は皆無では……ないのである」
『抗う者を皆殺しにすれば良いだけなのに』
『まだ言葉が通用する内は、言葉と金でどうにかするよ』
「ただ……オリンピア嬢にどう打ち明けるかって、今でも悩んでいるんだ」
「「はあ!?今すぐに言え(うのである)!」」
2人同時に怒鳴られた。
「い、嫌がられるかなって……」
怯んだ俺を左右から挟んで、
「だからこそ先に言うべきだ!」
「この卑怯者!吾輩は君を見損なったぞ、カイン!」
そのままレクスに首根っこを捕まれて、俺は引きずられた。
「うわあっ!?何をするんだよっ!?」
「オリンピア嬢の所に連行するだけだぜ!」
「説明に行くのである!直ちに!」
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