第70話 土下座したってもう遅い
「……済まなかった」
スティリコさんが止めてくれたから3発で済んだが、スティリコさんがいなかったら俺は撲殺されていただろうな。本気で拳で殴り殺されて死ぬと思った。
しっかりと光魔法で殴られた痕を治して貰ってから、俺は土下座するデルフィア侯爵とバルトロマイオスを見下ろしていた。
幸い……じゃないけれど、この世界の貴族にとって『自殺』は絶対的なタブーじゃない。貴族にとっては『貴族であることが何よりも大事』『家の名誉こそが何よりも大事』だから、それを守るためなら最悪許される、程度だけれどな。
でも痛かったぞ。
デボラの虐待で尻が痛かった以上に痛かったからな?
まあ俺も大人なので、大人げない事は言わないでやる。
「いえ、気になさらないで下さい。オリンピア嬢について、医師は何と?」
「……心の静養が何よりも大事だと……申し訳無いが、見合いはまた次の時に……」
嫌だ、とバルトロマイオスが大声を上げて駄々っ子のように泣き出した。
「もう良いよ父様!見合いなんてもう良いよ!もう姉様は充分に傷ついた!どうしてこれ以上傷つく必要があるんだよ!」
「バルトロマイオス、私達はあくまでも『貴族』なのだぞ!」
「貴族も何も無いよ!もう嫌だよ!大事な姉様がもう傷つくのは嫌だ!――うわぁあああああああああああああぁん!」
バルトロマイオスが俺に明確な敵意を抱いていたのにどうしてか不愉快な印象を受けなかったのは、威張ってこそいるが、家族をこんなにも大事に思っているからだろうなあ……。
あの、と俺は口を開いた。
「見合いでは無くて、『見舞い』に来ても良いでしょうか」
「何を……?」
俺の目的が分からないらしくて、困惑した顔をするデルフィア侯爵ことゲンコツ親父。
「僕はご覧の通りに、完璧で素晴らしい貴族ではありませんが、恐らくそこまで酷い貴族でも無いと思うんです」
……まさか見合い前に一切合切に絶望して首を括られる程だとは思っていなかったぜ。
そりゃあいくらデボラが打診したって全員から逃げられる訳だよな……。凄く俺は傷ついた。
『手っ取り早く女なんて寝台に連れ込めば良いものを』
『やかましい。そんなに穴が好きならオマエの尻に大根を突っ込んでやるから出せ!今すぐに出せ!出しやがれ!』
『誰がそんなモノのために大事な尻を出すか!』
『おお……。カイン、それだ』
『は?』
『女性も「誰がそんなモノのために大事な尻を出すか!」って思うんじゃね?』
『……ぐっ……』
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