第66話 いざ、お見合い!の前に

 いよいよ明日がお見合いだって事で、お風呂に3時間も入って、甘い香りの石けんで全身を洗ってお湯に浸かってを繰り返していた所為で……俺はのぼせてスティリコさんによって浴室から裸で担ぎ出されると言う醜態を晒した。


「兄上、しっかりしてよ」

ディーンの視線がちょっと冷たい。

「ごめん……うう……」

「はぁ……でも兄上がとうとうお見合いだなんて、寂しいなあ……」

何だこの!この可愛いヤツめ!

ちょっとだけ反抗期になっても可愛いとか反則じゃねえかよ……!

「心配しなくて良いよ、お見合いしても僕とディーンは兄弟だからね!」

「……うん。うん!」

笑ったディーンに聞いてみる。

「その……令嬢とはどんな話をすれば良いんだろうか?」


前世でも俺は『恋愛初心者』だった。

女友達はいたけれど、家族を亡くして茫然自失に陥った俺からは全員が去って行った。

ああ、違うんだ、アイツらは何も悪くない。

その頃には既に、俺の中に手の付けようのない『狂気』が生まれつつあって、誰に対しても少しずつ異常な態度を取り出すようになっていた。異性同性に関わらず、友達に去られてしまっても無理はなかったと思っている。自己保身に走るのは人間の基本だからな。


「相手の話を嫌がらずに何時間でも聞いてあげる事から始めたら良いと思う。その中で幾つかの共通の話題が見つかったら、そこから話を深めていけば良いんじゃ無いかな。

大事なのは返事や相づちで『ええ!?』『違うと思うよ』『おかしい』『だが』『でも』とか、否定することを言わない事だと僕は思う。初対面の相手から発言を全面的に否定されてしまうと……どうしてもその人の事まで嫌になってしまうから。

少しずつ信頼を積み重ねていけば、余程の変人や悪人が相手じゃない限りは、段々と打ち解けていけると思うよ」

なるほど……!

「ありがとう、ディーン。頑張るよ。確かに相手の言う事を否定して僕の意見を押しつけるのは、会話じゃなくて討論だったね」

「うん!兄上はこんなにも優しいんだから、自信を持って頑張ってね!」

身内の『優しいヤツ』評価は世間的に全くアテにならないんだ……。

ごめんな、ディーン。

オマエの思いやりがとても哀しいぜ……。


『出来れば正真正銘の処女が良かったぞ……まあ、体が処女ならば及第点か……』

カインがやかましい。

『オマエさ、男として自信が無いのか?』

『何を言っているんだ、ジン?』

『つまり「寝台での夜の対話」がド下手くそなのかって聞いているんだ』

『何だと!?』

『だってそうだろ?相手が「寝台での夜の対話」の超初心者じゃなければ勝てないって、オマエは戦う前から敗北宣言をしているんだぜ』

『……ぐっ……』

『俺だって超初心者だけれどさ。俺は戦うよ、最後までな』

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