第55話 はい!勿論!喜んで!ではありません

 普通、大貴族の家庭教師と言うのは、家庭教師先の令息令嬢が育つと、執事長やメイド長として領地経営や家政に携わったり、運が良いと領地の代官になれたり、家庭教師の経験を生かして平民へのマナー講座や平民のための私塾を開いたりして生計を立てていく事が多い。そのほとんどが己と同じような下級貴族と結婚していく。


「えっ、新手の詐欺ですか?」

アレクトラさんを連れて家に帰って事情を話したら、コンモドゥスはメチャクチャ警戒した。

「いくらカイン様からのお話でも……ここまであまりにも出来すぎている話だと信じるのが恐ろしいです」

「詐欺とは何だね!君、これでも侯爵令嬢の私に無礼だぞ!」

アレクトラさんが激怒する。でもコンモドゥスは冷静に、

「最近は『自称:貴族』による詐欺が増えているそうで、平民がかなりの被害を受けていると聞いております。もし貴女様が本物のユィアン侯爵令嬢でしたら……『魔法学大典』の19版の第16巻第6章399頁、右から13行目の内容を今すぐにお答え下さい」

「何だね君は!私をとことん侮辱するつもりのようだな!

――『魔法の属性がおのおの1人に付き1つに固定されている最大の理由は、右記の理由を総括して「魔法の属性が魂の属性に由来するためだ」と結論づけられる』

フン!君は知らんだろうがユィアン侯爵家に属する者は赤子の内から『魔法学大典』を子守歌のように聞かされて育つのだよ!」

怖い家だな……。

「逆に君こそ『魔晶』について答えられるのか?」

「魔力を保有し割れば放つと言う、見た目だけは水晶に似た新発見の鉱物でしょう。ヤヌシア州のみで現在ごくわずかに産出していると伺っております」

「私は『人工魔晶』の生成に成功した。だが天然物と比較してどうしても魔力の保有量も割った時に観測できる魔法の威力も格段に劣るのだよ。このままでは大きな人工鉱物であるだけで、何の役にも立たない」

「現状で考えられる劣化の要因は何でしょうか?」

「魔力の圧縮と結晶化過程における大気中の……」

……た、対等に会話できるんだな……。


 この2名はとてもお似合い(似たもの『同志』)で、何となく……いや、間違いなく上手くいくと俺は確信した。

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