第54話 俺の弟とレクスの妹とヴァロの姉と

 その時、お昼休みを知らせる鐘が鳴った。

丁度腹ぺこだったので、俺達は大食堂に連れ立って向かう。

「あーっ!おにいさま!」

「まあっ!おにいさま!」

お!

ディーンとヴァリアンナ嬢が一緒に席に座っていた。

「ようヴァリアンナにディーン!俺達も相席して良いか?」

レクスが声を掛ける。

「わあ、いっしょにごはんをいただくの?ぼくはだいさんせい!」

「あたくしも、いやじゃなくってよ、おにいさま!」

昼時はとても混雑する大食堂なのでありがたく相席させて貰った所で、ヴァロが気付いた。

「うむむぅ?あそこで所在なさげにしているのはアレクトラの姉上では無いか」

ヴァロの一番下の姉、高等部所属で今年卒業する予定のアレクトラさんがサンドイッチと飲み物を抱えて大食堂の中をウロウロとしている。席が無いのだ。

「みんなで頂こうよ!」

「はい!みんなでいただきますをしましょう!」

「ええっ!はやくしないと、ごはんがさめてしまいますわよ!」

「おう、みんなで食べると美味しいぜ!」

「助かるぞ。――姉上、こちらである!」

呼んだら、アレクトラさんがイソイソとやって来た。

「我が弟ヴァロよ、助かったぞ」

勿論、この人も例外ではなくマッドサイエンティストである。眼鏡の向こうの目つきがヴァロそっくりである。強大な地属性の魔法を扱えるので、ありとあらゆる発明に勤しんでいるそうだ。

何を発明しているのかは怖くて聞けない。


「……実は、昨日は腹が立って私は眠れなかったのだ。だから腹が減って仕方なくてな」

サンドイッチ8個を瞬く間にペロリと平らげ、飲み物を口にしながらアレクトラさんは言った。

「姉上、腹を立てている暇があるのならば、その暇で発明をすべきだと吾輩は思っている」

「昨日は別だ!何と父上が懲りずにまた見合いを勧めてきたのだよ。拒否権は無いとまで言われてな」

「姉上が今年卒業なのに婚約者さえいない上に見合いを全て断ってきていると言うのは、流石の父上も限界だったのであろう」

「婚約者なんぞ作っている暇があるのならば、私はそれこそ発明に身を投じたいのだよ!」

「偽の婚約者さえ作れぬ姉上の無能さに、父上は限界を感じていらっしゃるのであろう」

「ヴァロよ、言うに事欠いて私を侮辱するのか?」

「侮辱も何も事実である」


ああああ、姉弟喧嘩だ!

俺は慌てた。このままじゃデザートのフルーツゼリーを美味しく食べられなくなる。折角、今日のおすすめランチに珍しく付いてきたのに。

俺は刺々しい空気の中で好物を食べたくないんだ!


……ん?

『フルーツのゼリー』……?


――その瞬間、太陽文字の書かれたおはじきが俺の頭に思い浮かんだ。


「あっ。ディーン、ディーン!僕、解決策を思いついたよ!」

「おにいさま、どうしたの!?」

「その前にディーンにも確認したい。コンモドゥスに恋人っていたかい?」

「……ううん、したっているひとさえ……いなかったとおもうよ」

本と研究論文が最愛の人だからな……。

「よし!」

と頷いた俺をレクスとヴァリアンナ嬢がそっくりの不思議そうな顔をして見つめている。

「どうしたんだ……?」

「カインさま、どうなさったの……?」

俺はアレクトラ様に言ってみる。

「アレクトラ様、我がレーフ公爵家の家庭教師コンモドゥスを偽の婚約者に仕立て上げると言うのは如何でしょうか?」

コンモドゥスのように――もう良い年なのに、実家が貧乏すぎて婚約者が決まっていないと言う下位の貴族は珍しくない。

「それは、『魔法属性学』の新進気鋭の若手研究者のコンモドゥス・ドゥイヨアンか?確かどこぞの男爵家の出身だったな」

年こそ少し離れているけれど、アグリッパさんと違ってギリギリ犯罪じゃないくらいだし。

「ええ、一応は貴族の出身ですし、何より彼は研究好きです」

コンモドゥスにしても結構な良縁じゃなかろうか。

何せ相手は☆憧れ☆のユィアン侯爵家の1人なのだ。

政略どころか偽の関係と言うマイナスを考えても、そこを足し引きすれば圧倒的にプラスだと思う。

「ほう……では今日、早速だがレーフ公爵家に伺っても宜しいだろうか?」

お、これは脈がありそうだ。

「はい。一度コンモドゥス本人とも話をして、その後で日を改めて僕の母上とも……」

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