第41話 やろうか、××!

 多分、こんな光景は二度と見られないんじゃないかなあ。

俺は今、帝国城の西の離宮の皇太后様の私室にいる。目の前では皇帝皇后両陛下と皇太子殿下夫妻、ついでに皇太后様まで険しい顔を付き合わせている。

……ディーンはあまりにも泣きじゃくるので、離宮の一室でポンポニアとコンモドゥスがかかりっきりであやしている。


「下手人はあの伯爵家の関係者で間違いないのか」

「間違いありません。先の皇帝陛下の暗殺のように、『確固たる証拠が皆無』だと言う共通点があります」

「おのれ……貴族派!何処までも妾達を虚仮にしおって!」

皇太后様が手にしている扇をベキッとへし折った。

お、おお……怖いな……。

「しかし皇太后様御自らが我々と『同盟』を結んで下さるとは思っておりませんでした」

「フラヴィウスよ、デボラは妾にとても忠実に仕えておったのじゃよ。女には女の悪意が丸見えになるが、デボラには何の悪意もなかったのじゃぞ。アンティスティア、おぬしにもそうじゃったろう?」

「はい、お祖母様」アンティスティア皇太子妃は唇を噛んだ。「彼女は紛うことなく忠臣で……あうっ!」

そこでアンティスティア皇太子妃は腹を押さえて低く呻いた。

「アンティスティア!」

「休んでいなさい!」

「これ以上はお腹の子に触る!」

「頼む、もう無理をしては……!」

「ですが、このままではあまりにも悔しくて!!!」と興奮して叫ぶ彼女をほぼ強引に女官に渡して、残る4名はデボラの仕事をどうカバーするかとか、あの伯爵家についてどうしたものかとか、真剣に話し合っていた。


『なあ、カイン』

『ああ、ジン』


 俺は俯いたまま椅子から立ち上がる。

「カイン君……?」

話しかけてきたフラヴィウス皇太子に、俺は弱々しく答えた。

「おかあさまはどのへやにいますか?」

「……北の離宮だ。案内させようか?」

「いえ……ちょっとひとりになりたいんです……」

「……分かった」


 『お待たせカイン!この前言っていたアレをやろうか!』

『待ったぞジン!

「リンドス伯爵家を叩き潰し更地にして、一族郎党の首を山のように塔のように高く高く積み上げる」

――あははははははははははははは!デボラの母上を悪意で以て傷つけた者なぞ皆殺しだ!親類縁者子々孫々に至るまで族滅だ!根絶やしだ!赤子であろうと容赦するものか!親子諸共焼き殺してくれる!良いぞ良いぞ、愉しくなってきたァ!』

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