第38話 意外な助け船

 「失礼しまーす!魔法の訓練用の木的の搬入先はこちらで合っていますか……おや!?」

ガラリとドアが開いた瞬間に、ヤンキー(仮称)共が我先に窓から逃げ出した。

……蜘蛛の子を散らすように一瞬で逃げた。

いやー、素晴らしい逃げ足だった。

『……貴様は!』

カインが喚いたのを無視して、俺は声をかける。

「マグヌス!どうしたの!?」

「ええっ!?まさか、今度は坊ちゃまでしたか!」

よく見ればリュケイオン学園の立ち入り許可証のバッジを胸に着けている。

バッジの色は赤色だ。

赤色のバッジはリュケイオン学園御用達の商人に渡されるものだ。

「お元気そうで良かった……私達はあれから妻と一緒に商いを始めまして、今はこの通り、リュケイオン学園ともお取引させていただいております」

「サリナは……?」

「車椅子なのは変わりませんが、店舗で元気に今日も帳簿を付けていますよ」

「そっか……」

元気なら、良かった。

マグヌスの様子を見る限り、二人ともそれなりに幸せそうだった。少しだけマグヌスも太ったか?でも、幸せ太りらしい。笑顔がとても福々しくて、不健康な太り方はしていないから。


 誰?とレクス達が俺に視線で訊いてくるので、簡単に説明した。

元々はレーフ公爵家の執事だったって。とある事情でメイドのサリナと一緒に辞めたけれど、悪いヤツじゃないし、身元の保証人をデボラがやっているとてもしっかりとした人間だって。

「たすけてくれてありがとうな!」

「うむ、あぶないところだった」

「いえ……まさか坊ちゃま達まで脅迫されているとは思いませんでしたよ」

「ねえマグヌス……アイツら、こんなことをよくやっているの?」

マグヌスの助けに入ったタイミングが、あまりにもピッタリすぎる。

それに『今度は坊ちゃま』ってマグヌスが口にしていたのも気になった。

ええ、と頷いてマグヌスは顔をしかめた。

「首謀者が……かなりの問題なのです。あの伯爵の家は貴族派でも悪名高い所でして……」

「あくみょうだかいって……?」

「彼の姉が貴族派の事実上の長であるエヴィアーナ公爵の愛人なのです。それを良いことに、酷く専横に振る舞っているようでして……」

『俺の下僕の一人じゃないか!』


 エヴィアーナ公爵はカインが従えていた悪の手先だった。

魔剣ドゥームブリンガーの力は『捕食したモノを何であれ支配できる』と言うもの。

ヴァリアンナ嬢に付与されていた闇魔法の属性を光属性に統合する事だってあんなにも簡単だったのだ。

洗脳人格支配その他諸々なんて、お手の物。

朝飯前のお茶の子さいさいの片手間で出来る。


 ……エヴィアーナ公爵は真っ先に食われて、後はカインの『表側』として散々に悪事を働いてくれたのだ。

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