旅の過程を楽しむ 〜『キノの旅』を読んで〜

「ライトノベル おすすめ」で検索したときによく出てくる作品の一つである『キノの旅』。


「いつか読んでみよう」と思っていてやっと読むことができた。


結論をいうととても好きな作品だった。


キノという少女がエルメスと名付けた二輪車とともに旅をするのだが、エルメスはなんと喋るのだ。そんな一人と一台が軽妙な会話をしながら、様々な国を訪れていく一話完結型の短編集だ。


ドライな文体で淡々と物語は進んでいくのだが、その文体が心地よく、なぜだか深い没入感を促してくれる。訪れた国それぞれの空気を感じさせてくれる。


訪れる国々ではどこか人々がみんな歪んでいる。


多数決制度を導入して破綻した国。

人の感情が読めるテレパシーを国民全員が獲得した結果、誰とも顔をあわさなくなった国。


2006年に発売された小説だが、今の時代でも現実と紐づけて考えられるような寓話になっている。それだけ書くと、説教臭い作品なのかと思われそうだが、そんな臭いはせず、ストーリーとして心地よい読み心地もあった。


キノたちは訪れた国を3日間だけ滞在するルールとしている。その土地の空気感をしっかりと味わいつつも、根付くまでにはいかないちょうどいい期間なのだろう。


キノは「旅行」ではなく「旅」をしているので、キノには目的がない。観光や買い物をしにきているわけではないのだ。たまたま訪れた国で3日間滞在し、その国の人々の話を聞く。嫌な想いもすることもあるが、その時間さえも受け入れているようだ。旅の過程を楽しんでいる。


そんなキノの旅を見て、彼女たちのスタイルを羨ましく思った。


自分は最近「とにかくたくさんの小説を読もう」と思って、読みたい作品をリストアップしていた。2日に1冊読む目標を立てて、暇な時間は読書に費やしていた。


気づけば、読み終わることが目的になっていた。大筋に関係なさそうな描写は読み飛ばしてショートカットなんてこともしていた。


名作を読んだという安心感。この本は知っているという(根拠のない)自信を得たかったのだろう。


しかし、読書は本来読み終わることが目的ではないはずだ。ゴールなんて設けずに、旅の過程を楽しんでいるキノを見て、とてももったいないことをしていたように感じた。


作中を旅する中で見える風景、そこで出会った人々や事件。


それらをじっくり観察して、ときには巻き込まれる。そんな読書という旅の過程を楽しむことこと読書の醍醐味なのかもしれない。


何冊読んだとか、どの作品を読んだとか、そんな些末なことは気にせずに、目の前の作品世界に夢中になりたい。


そんな気づきを得られた作品だった。

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