第3話 新しい身体
「何……ここどこ……?」
分かるのは、自分が木造の建物の中に置かれたベッドの上で寝かされているということと、窓の外の景色から、とても広い高原のような場所に居るということ。
地平線まで続く草原と、広大な青空。
「ていうか僕、死んだはずじゃ……」
もしかして、死後の世界とか?
天国とか地獄とか、あれはあくまでも宗教上の世界だし、あったとしても地獄くらいじゃない?
それに、僕が行けるとしたらきっと地獄だろうと思っていたから、正直面食らっていた。
「そういえば、身体も動く……」
大型トラックに撥ね飛ばされたのだ。
きっと身体は原型を留めていないだろうと思っていたのだ。
しかし今、僕はこうして窓枠に手を伸ばして、起き上がり、窓の外を眺めている。
というか……この感覚。
もしかして僕、今服着てない……?
まだ意識がはっきりしておらず、ぼうっと窓の外を眺めていたけれど、胸の辺りに直接風が触れたような感覚がして、徐ろに視線を自身の身体へと下げてみた。
「うわぁ……」
その身体には、右胸から左の脇腹にかけて、大きな傷跡が残っていた。
間違いなくあの事故に巻き込まれ、自分は死んだのだと突きつけられたような気がした。
そして他に特徴的だったのは、男としての象徴が綺麗さっぱり無くなっていたことだ。
「えっ……嘘!?僕女の子になっちゃったの!?」
そんなマンガのようなことまで起きるのか。
とりあえずペタペタと自分の身体を触って確かめてみると、不思議なことに気がついた。
「男でも女でもない……?てかお尻の穴まで無いって……僕、人間ではない何かになってしまった……?」
……まぁ、考えても仕方がないか。
それにしてもこの建物、なんか懐かしい感じするなぁ。
あれだ、ばあちゃんちの匂いに似てるからだ。
ベッドから立ち上がって寝室から出てみると、居間のような部屋に繋がっていて、その机の上に一枚の紙切れが置いてあることに気がついて、それを手に取ってみた。
【貴方様は言の葉の権現。貴方様の紡ぐ音は、この世界に幸福のみならず不幸をももたらすことが出来ます。その権能を用いて、善神となるも悪神となるも、全ては御心のままに】
この【貴方様】って僕のことなのかな……?
でもこの建物の中に、他に人がいる気配も無いし。
それに善神、悪神……って。
人じゃない何かであったとしても、神様になるのはちょっとなぁ……。
若干引いたけど、でも……言の葉の権能ね。
口は災いの元。
言葉は人を支える救いにも、相手を芯から傷つける凶器にもなる。
その怖さを僕は知っている。
そんな危ないものを任されることになるなんて……一番それから離れたがっていたのに。
なんだか皮肉なものだな。
さて、自分のことも少し分かってきたところだし、とりあえず服着ようかな。
いつまでも全裸で居るのはちょっとね……。
服……服……。
え、この建物に服無くない?
嘘でしょ……?
う〜ん……ん?
言の葉の神なのであれば、言葉を現実にできたりしないかな。
なんてそんな妄想通りにいくわけないよね。
それが出来たら、この能力チートすぎるし。
『服を出して』
とは言ってもとりあえず、物は試しということで。
そんな豪華なやつじゃなくていいから、動きやすそうなやつ。
そんなイメージを持ちながら、そう呟いてみると、窓の外から突然強い風が入り込んできて、その風が連れてきた草の束がみるみると繊維状になり、縦と横に編み込まれて、最終的に上下セットの衣服が出来上がった。
上は半袖だけど、スリットが入って前面と背面に布が垂れるようになったものと、下はズボンになったみたい。
なるほど、物を生み出すにも、無から有を作り出すんじゃなくて、既にあるものを変質させる感じなんだね。
むしろ良かった。
無から有を、なんて全知全能の力を手にしてしまったら、きっと僕は堕落してしまう。
✧• ───── ✾ ───── •✧
それから何日か過ごしてみて分かった。
この身体になってからは、食事も排泄も必要としなくなったということ、そして、この高原は断崖絶壁で、外に繋がる道は一つもないということ。
そして、この建物の外観が神社のお社みたいだったことも分かって、手に入れた能力も相まって、本当に神様になっちゃったのかもって実感した。
『浮遊』
自分が宙に浮いている姿をイメージして、そう呟けば、実際に浮遊することができることも分かった。
空中を自由に動くことができるようになったから、この高原の外の世界へ行こうと思えば行けたけど、ここでのんびりと過ごすことの心地良さを覚えたこともあって、外界へ行くのはまた今度でいいや。
と、そう結論づけた。
そして、あの悪夢である。
神様になっても夢とか見るんだな。
あの夢を見る時って、毎回嫌なこと起きるんだよなぁ……。
ついにこの世界で初めての住人と出会っちゃったり……?
良い人だといいなぁ……けど、面倒だな。
とりあえず、利用しようと近づいてくるような人には気をつけないとね。
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