第45話 ドキッ! 『漢女』の家庭訪問!

 ロレリアムの街が『漢女おとめ』たちに席巻されてからいくばくかの時が過ぎた。


 人間とは『慣れる』生き物であることを示すかのように、ギルドの冒険者たちも、そして街の人たちも漢女たちがいる日常を普段の風景として認識していた。たぶん。



 そんな日常のなかで、いつもの通り事務仕事に没頭していたその時。



「ナカムラよ! とうとう来たぜ、街長からの依頼がよ!」


 ギルマスが少々興奮してオレを呼び止める。


 その依頼とは。





 以前、街長の息子であるヴィクシム君たちが取り組んでいた『避難者マップ』。


 彼らは、冒険者ギルドでの現場実習中に見事ギルド周辺の各家庭の訪問調査を終え、要援護者の居住する家々を資料化するという『マップ作り』を完成させた。


 そのマップは、彼らの通う領都の中等学院に学業の成果として提出されるとともに、街の役人経由で街長の元にも提出され、この度、その有用性が街の幹部たちに認められ、ロレリアムの街の『避難者マップ』そ制作しようという流れに至った。


 今回の依頼とは、そのマップ作りのための、街全体に及ぶ、各家庭に要援護者がいないかの家庭訪問調査の依頼。


 街の役人だけでは当然手が足りず、その為に冒険者たちに『依頼』という形で調査が依頼されたのである。



 この依頼を、渡りに船と喜んだのは、クラン『百花狂乱』の漢女おとめたち。


 彼女らは常日頃から、自分達を受け入れてくれたこの街に何か恩返しをしたいと考えていた。


 そんな折の、この依頼である。



 この街に住む、身体の弱い老人や病人、そして幼い子供たちが、有事の際に迅速に避難誘導を受けられるようになるこの取り組み。


 街のみんなに恩を返すのは今この時と、彼女らは我先にとこの依頼を受け、街中に散っていった。



◇ ◇ ◇ ◇



「こんにちわん! 冒険者ギルドから依頼を受けてお邪魔しましたわん!」


「は‥‥‥はわあわあわわ」





 いかん! 漢女おとめの家庭訪問を受けたおじいちゃんの魂が抜けていく!


「『治療魔法Lv8』!!」



 ふう、危ない。


 危うく要援護者が要埋葬者になるところだった。



 うーむ、やはりお年寄りたちにいきなり漢女おとめたちの訪問は衝撃が大きかったか。


 漢女の中でも見た目最恐のエフェリーネさんだからこうなったのかもしれないとは言え、この分では街中のいたるところでこの惨劇が繰り広げられているかもしれない。


 むう、念のためにと各方面にヒーラーを同行させておいて正解だったな。



◇ ◇ ◇ ◇



 ギルドに戻ると、食堂のテーブルでは打ちひしがれた漢女たちが死屍累々と落ち込みの最中にあった。


「えーん、えーん。あたし、あたし、おばあちゃんの心臓止めちゃったのー!」


「わたしなんか、閻魔様のお迎えだって拝まれちゃったんだからね?!」



 うーむ、やはりカオスだったか。


 というか、この異世界にも閻魔様の概念があるんだなと妙なところで感心していると、漢女たちの注目がオレに集まった。


「「「ナカムラきゅん! わたしたち、うまくできなかったのー! これからどうすればいいのかしらん?! 教えてー! ナカムラきゅん!」」」



 おまいら落ち着け。


 そして近づくな。



 まあ、彼女? らの悲嘆は理解できる。


 街の役に立とうと張り切って家庭訪問したら、相手を驚かせて怯えさせ、成果が得られなかったんだからな。


 しかし、どうすればいいのかと聞かれてもな。

 

 顔面と肉体を修復しろと助言したいところだが、不可能なことを言っても仕方がないしな。

 

 うん、しょうがない。真面目にアドバイスするとするか。


 

「えーと、まず一言で言うと、みなさん張り切りすぎです。おそらくですが、皆さんはこの街のためにと意気込み過ぎて、相手に話を進めようとしたんじゃないですか?」


 オレがそう言うと、「あー、たしかに」「そうだったかも」と皆思い当たる節があったようだ。


「じゃ、じゃあ、あたいたちのをお近づけになったことが原因だって言うの? 確かに、顔面に破壊力があるのは自覚しているけど‥‥‥でも、それじゃあ、あたいたちにはこの依頼は無理だってこと?」


 確かにそれもあるのだがそうじゃない。


「えーと、違います。この話に顔面の破壊力はとりあえず関係ありません。要は、合相手とのの取り方の問題です。」


「「「距離感?」」」



「はい。距離間です。皆さん、少し想像してみてください。初対面で、話をしたこともない人がいきなり近づいてきて自分のそばにぴったりと寄ってきたらどう思いますか?」


「「「いいオトコなら大歓迎よ!」」」


 そういう話じゃねえよ。



「えーと、いいオトコの話はちょいと置いておいてですね。えー、人にはですね、『パーソナルスペース』というものがあってですね、ある一定の範囲よりも他人に近づかれると不快に感じる距離というのがあるのです。おそらく皆さんは、成果を出そうと意気込み過ぎてこの範囲よりも近づきすぎてしまったのが原因と思われます」






ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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