第44話 マジョリティーなマイノリティ

「ここはいい街なのねん。だから、今度はわたしのクラン、『百花狂乱』のメンバーも全員呼び寄せるのねん!」







 こんな爆弾発言から約1週間。


 ここ、ロレリアムの街は。

 

 混沌に包まれていた。



「いらっしゃいませ~なのん! 今日の『ひがわりらんち』はブル肉のパン生地包み焼よん! お・い・し・い・わ・よん?」


「オークを倒してきたわよー! なんかー、オーク共が集落つくっちゃっててー。ゲロボコにしてきたんだけどー。おかげでー、オークのタマタマたくさん拾ってきちゃったー!」


 冒険者ギルドの中はもちろん。



「いらっしゃいませませー! 素泊まりで大銅貨4枚よおー! あ、あたしがベッドメイクしたんだよ? ドキドキしちゃってねむれないかもねー!」


「らっしゃらっしゃい! バジリスク肉の串焼きだよ! そこのかっこいい兄ちゃん! 一本どうでえ! 精がついて夜もバリバリだぜ! なんならあたいもお持ちかえってくれてもいいんだぜ!」



 ギルドの外の街並みにも。


 とっても素敵な『漢女おとめ』の皆さんがあふれかえっているのです。



 現役Aランク冒険者兼、ギルドの食堂で厨房見習いのエフェリーヌさんがリーダーを務める漢女クラン、『百花狂乱』の全メンバーがこの街に集合した。


 今登場したのは、いずれも花も恥じらう漢女たち。


 心と身体の性別が一致しない、『性同一性障害』を持つ人たちだ。


 彼女? らのクランは、もともとは王都を拠点に活動をしていたらしい。



 自身が生まれた町や村で、心身の性別が合わずに肩身の狭い思いをしていた彼女たちは、人の多い都会ならば自身の『個性』を溶け込ませることが出来るのではと都会を目指す。


 100人の中に漢女が1人いるのと、1万人のなかに数十人いるのとでは、当然周囲から寄せられる関心の大きさに差はあるだろう。


 だが、いくら自身の個性への奇異なものを見る空気が薄まったとしても、『社会に溶け込む』こととはまた話が違ってくる。


 人である以上、働いて糧を得なければならないという業は変わらず存在しているからして、『職場』という人間の集団に飛び込んでいかなくてはならない現実が目の前に立ちはだかるのだ。


 結局、国一番の都会に来たとしても、その段階で自身の『個性』を殺すか、奇異の目にさらさ続けるかのいずれかを選ばなければならなくなる。

 

 そして、どちらを選ぶこともできない、人生に不器用な人間もまた存在する。


 選んだ者、選べなかった者。



 そんな者たちは、自然と自分達と同じような境遇に置かれた者同士でコミュニティーを作っていく。いや、作らざるを得なくなる。


 そうして集まった『漢女』たちを、強い心と鋼の身体を持ったエフェリーヌさんがまとめ上げたクラン。それが『百花狂乱』である。

 


 彼女らは、王都という都会で、時には息をひそめ、時には周囲からの奇異なものを見る目を避け。あるいは心を殺しながらも逆に自らの存在を面に出して活動していた。


 でも、彼女らは満ち足りなかった。


 自分が、自分らしく。


 ありのままでお日様の下を歩いていきたい。


 そんな場所を求めていた。



 そんな時、とある街のうわさが彼女らの耳に入ってくる。


 利き腕を失っても、指導者として冒険者家業に携わり続けることのできる街があると。


 身体の弱い病人や老人達、そして子供たちを、いざ事があれば真っ先に救助に動き出す準備を整えている街があると。


 そして、種族の違う獣人族が、人族の街の中で幸せに暮らしている街があると。



 彼女らは色めき立った。


 わたしたちも、そんな街だったら誰に遠慮することもなく生きられるのではないのだろうかと。


 そして、その希望は現実となる。



 かつて、社会の隅で人目を避けるように暮らしていたマイノリティたちは、いまや『少数派』ではなくなった。


 街に溶け込み、街を構成する一員として。

 

 正々堂々、この街のマジョリティーとして生きていけることになったのである!




「いや、だから、それってどうなの!? 『漢女』が『多数派』になっちゃうのはどうなんだよーーーーーー!!」


 誰かオレの心の叫びを受止めてくれ。




 そんな嘆きを抱えているオレの目の前で、


「おおジョセフィーヌ。今日もお前の大胸筋は美しいな」


「あら、アラン。あなたこそ、スキンヘッドの光具合が渋くて素敵だわ」


 『漢女』の一人と、よく冒険者ギルドに居た上半身裸でスキンヘッドの荒くれ男がいい雰囲気になって腕を組んで歩いていく。


 恋愛において、究極の愛とは。


 相手の身体目当てに人を愛するのか? 否! と言わんばかりに。


 純真無垢な心を持つ『漢女』と、そんな女性性に惹かれる『男』。


 心を轢かれ合った、いや、惹かれ合ったそんなカップルが、『これぞ真実の愛のカタチ』と言わんばかりに街の大通りを闊歩する。

 

 真実の愛に目覚めたのか変な性癖に目覚めたのかはわからないが、前者であることを切に願う。







 ああ、たしかに社会的マイノリティの人たちがなんの憂いもなく生きていける環境を整えることは必要だよ!


 でもな、


 でもな?!



 コレはなんか違うんじゃないかーーーーーーーー!

 




ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!

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