第43話 乙女な漢女

「こんな見た目のわたしでも、この街でなら受け入れてもらえるかもしれないって思ったのねん!」


『混沌の麗人』こと、漢女おとめのエフェリーヌさん。


 なんと、この街に来た理由の一つが獣人族の子供たちが人族の中でも普通に暮らしているという噂を聞いての事だというではないか。


 あっちゃー。


 たしかに、ウィトンたちケモミミ3姉弟はこのギルドで、そして街でも受け入れられている。


 そのうわさが、領都でも料理の件と共に伝わってしまったのだろう。


 噂を広げたのはヴィクシム君たちだな。にゃろう。




 たしかに、心は女性、見た目は男性であるエフェリーヌさんは、生きずらさを感じていたのだろう。


 現代日本でいえば、『性同一性障害』であると言える。


 さっきエフェリーヌさんは自分のことを女性と言っていたが、この異世界には性転換手術はないはずだし――ないよな? もしや異世界不思議パワーで性転換の魔法なんかあるのだろうか?


 そう思って思わずエフェリーヌさんのエプロンの下にあるレオタードの股間部分に視線を巡らし――うん、あのふくらみは付いているな。間違いない。


 と思ったら、オレがそちらに視線をやっていたのをエフェリーヌさんが気づいて顔を赤らめている。誤解だよ! 誤解しないで!



 まあ、たしかに、この街にはウィレミたち獣人族を受け入れてくれるという素養は出来ている。


漢女おとめ』のことをよく知らない民衆は彼女? のことを奇異な目で見るのかもしれないが、ウィレミ達の時同様、それは『知らない』ことからくる本能的な排他衝動であり、常日頃から接し、人となりを知ることでそんな排他的な態度は徐々に減っていくだろう。


 さっきのオレの視線を感じてから妙に顔を赤くしてオレのそばに近づいてくるエフェリーヌさんをどうにか躱しつつ、そんなことを考える。



「なるほどな。おめえの気持ちはよく分かった。それで、さっきおめえは自分のことを女性て言っていたが、まだタマは付いてんのか?」


 おい! ギルマスよ! それはあまりにもストレートすぎるのでは?!


「いやん! アーモスったら、相変わらずがないのねん! もう知らないんだからねん!」


 ギルマスはエフェリーヌさんの恥ずかしがっての背中への殴打をくらい、その場にゆっくりと崩れ落ちて行った‥‥‥。




◇ ◇ ◇ ◇



「はあ、えらい目に遭った‥‥‥」


「おつかれさまーバケーション」



 夕食の時間が終わり、ウィスラたちを伴って自分の部屋に戻ってくると、すっかりいつもの風景となったビェラさんが出迎えてくれる。


「ところでナカムラ?」


「はい?」



「ナカムラは一向に私やウィレミに手を出してきませんが、もしかしてエフェリーヌさんみたいなのが好みなんですかお好み焼き。」


「何を言っているのかな?」



 何から何まで誤解が渋滞している。


 まず、ビェラさんに手を出すとかの話だが、あれ? もしかして、ビェラさんオレの事‥‥‥!


「もう、ナカムラは鈍感どんどんドン・キホーテなのよ」


「あっ、ああ‥‥‥」


 やっべ! 胸のドキドキがとまらねえ!



 すると、そのそばで話を聞いていたウィレミも顔を赤くして


「お兄ちゃん? あ、あの、わたしも! えっと‥‥‥! 裸になってもいいんだよ?」


 こらこら12歳! おまえもか!


 確かにそんなこと言ってもらえるのはうれしいけれども! 


 お前に手を出したら犯罪なんだよ!



「あらん? お取込み中なのねん? でもねん? 12歳なら結婚しても問題ないのよん?」


 そしてそこに現れるエフェリーヌさん!



「ど‥‥‥どうしてここに‥‥‥?」


「あらん? さっきのわたしのマイベイビーへの熱い視線にお呼ばれしてきたのだけどねん?」



「呼んでませんから!」 




◇ ◇ ◇ ◇



 エフェリーヌさんのマイルームへの突撃に肝を冷やしてヒュンっとなったが、何やら真剣な話があるという事で部屋に招く。


 ビェラさんがお茶を淹れてくれたので、そのまま隣に居てもらう。オレを一人にしないで!


 ウィレミ達は部屋が狭いので、お外の土魔法で作った湯あみ場で体を洗っている。お湯は出しておいた。


 で、エフェリーヌさんの用件は何かというと、


「聞いたのねん。ここの食堂の目新しいメニューも、ケモミミちゃんたちの受け入れも、あなたのチカラがあっての事だってねん。」


 ふむ、そっちの話か。


「さっきも食堂でお話したけれども、わたしはこんな見た目でいろいろ苦労してきたのねん。バケモノなんて言われて、本当はとっても悲しいんだけど、落ち込んだ顔を見せたら負けだって思って頑張って生きてきたのねん。」


 うん、見た目は『漢女おとめ』だけども、心は純粋な『乙女』なんだよな。


 見た目からいろいろ誤解をうけてきたんだろうな。


「それでねん。あなたにぜひともお礼が言いたくてねん。」


 いやいや、そんなご丁寧に。


「ここはいい街なのねん。だから、今度はわたしのクラン、『百花狂乱』のメンバーも全員呼び寄せるのねん!」



 はあああああああああああああ!!!!!?




ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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