第42話 新たなるマイノリティ
平凡な日々。
新規登録の冒険者への初心者講習を行ったり。
ギルド事務室で事務仕事に没頭したり。
夜は相も変わらずオレの狭い部屋でケモミミ3人姉弟とビェラさんと過ごし。
そんな日々が続いていたある日のこと。
冒険者ギルドにある一人の人物が訪れる。
「あら~ん。とってもジューシーでワンダーなお味ね~ん! 噂で聞いた通りでわたしテンション爆上りになっちゃうの~ん!」
ギルドの食堂兼酒場で、ウスターソース掛けのハンバーグと、ケチャップと
なんと、王都でも名の売れているAランクの冒険者である。
このお方。
名前はエフェリーヌと名乗っている。
名前も心も言葉もとっても女性らしい。
そして、
見た目は筋肉隆々で、胸元をはだけさせたセクシーレオタードを見にまとった『
『混沌の麗人』という二つ名を持つ彼? 彼女の役割はヒーラー。
本来は両手使いの鉄槌メイスを片手で操る撲殺僧侶である。
そんな彼女が、なぜこんな都会とは言えないロレリアムの街に現れたのか。
その原因は、ここのギルドで振舞われる美味しい食事にあったらしい。
「テヒメラスの領都でねん、とってもウワサになってるのん。極上の味わいの、見たこともないお料理がここで食べられるってねん! だからねん、わたしはここに来たってわけなのん!」
ん? 領都で噂になっている?
と、いう事は、噂の発生源は領都の中等学院に戻ったヴィクシム君たちだな!
ちくせう、口止めしておけばよかったぜ。
まさか、おれの日本食スキーがこんな
「ねえ? この芸術作品をおつくりになったマスターはいらっしゃいますのん?」
厨房ではラドミラさんが無言でロウシュさんの背中を押している。
ウィスラとウィトンは怯えている!
ロウシュさんは戸惑い怯えながらも妻の迫力にも抗えず、押されるがままにエフェリーヌさんの前に突き出される。
「あら~ん、あなたがマスターなのねん? うふ、いいオ・ト・コ! わたしの好みだわん! でも、残念ねん。奥様持ちだなんて。あら? 修羅場かしらん?」
修羅場というよりお前は阿修羅だろうというツッコミ衝動を必死に抑える。
ロウシュさんは顔を青ざめさせ、その妻ラドミラさんの表情は‥‥‥うん、虚無だな。
すると、何を思ったか
「あの、わ、わたしを弟子にして下さいなのん! 一生けん命頑張るのん! 愛人にしてくれとかそんなことは言わないのん! どうか、お願いしますなのん!」
‥‥‥
こうして、王都でも有名なAランク冒険者、『混沌の麗人』の二つ名を持つエフェリーヌさんは、ここロレリアムの街において冒険者ギルドの厨房見習いとなるのであった‥‥‥。
◇ ◇ ◇ ◇
「いやー、それにしてもエフェリーヌが来たってきいたときゃあ、これで我がロレリアム支部もAランク冒険者の在籍で名前が売れると思いきや、まさかの調理人志望だとはな!」
ギルマスはそう言って、氷魔法で冷やされたエールを喉に流し込む。
なんと、うちのギルマスとエフェリーヌさんは知り合いらしい。
なんでも、ギルマスが王都で活躍していたAランク冒険者時代に当時Cランクだったエフェリーヌさんと合同で依頼を受けたことがあるのだとか。
「それにしても、あの頃は線が細くてか弱くて、見た目も名前も女みてえだってからかわれていたエフェリーヌがまさかこんなバケモノになっているとはな!」
「あらん!
うむ、控えめに言ってカオスである。
エフェリーヌさんが来たと聞いて、レッドドラゴンの鱗10枚を集めるという焦げ付き依頼の依頼書を持ってきたギルマスは、冒険者としてではなく調理人として登録したいという話を聞いて目を丸くし、さらには昔と変わり果てた姿を見てさらに目を丸くしていた。
さすがに初日から厨房に立たせるわけにいかないので、給仕としてフリル付きのエプロンを見に纏ったエフェリーヌさんと親睦を図りながら一杯やっているのがいまここである。
なぜオレがそこに同席しているのかが最大の疑問なのだが、怯えているウィスラとウィトンをそのまま置いていくわけにはいかず席を立つことが出来ないでいる。
「それでねん。わたしがこの街に来たのはもう一つ、理由があるのねん。」
「どうしたんだ。」
「アーモスがいるってのもあるし、美味しいお料理を味わいたいし覚えたいって言うのも本当なのねん。でも、ほかにもねん、思うところがあったのねん。」
「うん。言ってみろ」
「それはねん。このかわいいケモミミちゃんたちがねん、人族に紛れて普通に暮らしているってのを聞いたのねん。だからねん。こんな見た目のわたしでも、この街でなら受け入れてもらえるかもしれないって思ったのねん!」
あっちゃー、これは、原因はオレだな。
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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