第38話 かわいいケモミミ給仕さんと冒険者
ウィレミ達虎獣人3姉弟を保護した翌日。
オレは長女で12歳、冒険者登録をしたウィレミを伴い、街の外まで出てきた。
そう、昨日ウィレミは新規登録をしたという事で、新人講習を行っているのだ。と、いう事は当然隻腕のシュラークさんも一緒だ。
シュラークさんは、ウィレミが獣人だからなのか、それとも12歳の女の子一人を相手にしているからか――多分後者だが、なかなかうまくコミュニケーションを取れないようだった。
「‥‥‥ナカムラ、そこに薬草が群生している。採取方法を教えてやれ」
「ちょっとシュラークさん? 確かにオレも付き添い出来ちゃってるけど、これは本来シュラークさんのお仕事なんですよ!? ほら、ウィレミが怖がってるじゃないですか?」
「怖がられてる‥‥‥?! そ、それは困る。ウィ、ウィレミといったか、そこに見えるのが薬草でだな‥‥‥」
おっと、強面シュラークさんがデレております。
そうなんだ。一見不愛想に振舞っているように見えても、誰だって、積極的に人から嫌われたいとは思わない。だから、不機嫌そうに見えてとっつきにくく感じる相手だって、実は照れていてうまく話をできないだけかもしれないんだ。(一部特殊な人を除く)
そんな誤解も、何回も顔を合わせ、挨拶したりして接する回数が増えていけばきっとお互い分かり合えると信じたい。
獣人と人間との間には、いろんなわだかまりが多いとは思いうけれど、こういった時間を過ごすことでウィレミ達にこの街になじんでくれればいいなと思う。
その日の午前、一通りのフィールドワークを終え、昼の時間にギルドに戻る。
そこには、一生懸命ギルドの酒場兼食堂のテーブルを拭く8歳ウィトン(男)と、食堂のみならずギルド全体の床を拭き掃除している10歳ウィスラ(女)の姿があった。
「ウィスラ! ウィトン! よく頑張ってるな! 偉いぞ!」
オレはすかさず二人を誉める!
誉められた二人はにぱぁ~と笑い、掃除を終えると孤児院の子供たちにお昼のご飯を運んでいく。
孤児院の子供達ともまだ多少のぎこちなさはあるものの、打ち解けてきているようで何よりである。
『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。』
山本五十六氏の名言である。
辛い思いをしてきたこの獣人の兄妹に、労働をさせるのは過酷なのかもと思う自分がいる。
でも、でも。
保護することと、甘やかすことは違う。
ウィレミ達は、いつまでもオレの保護下に居られるわけでも、そして居られる訳でもない。
この先。必ず。自分たちのチカラで生きていかなければならないのだ。
だから、『教える』。
仕事を、人とのかかわり方を。生き方を。
まさに老子の言葉の
『魚を与えるのではなく釣り方を教えよ』
である。
どうも今日は偉人の言葉を引用ばかりしているな。
『名言丸パクリ』みたいなスキルが生えないことを祈ろう。
そして夕方。
「いらっしゃいませ(しぇ)!」
そこには可愛いケモミミ給仕さんが爆誕していた。
え? 夜に子供を働かせるなって?
大丈夫だ。夕食の時間だけだ。
酒の出る時間までには終わらせる。
「『ひがわりらんち』を4人分頼むぜ! かわいい給仕さん!」
「あい! かちこまりまちた!」
「おねえちゃん、ポテトフライをお願いするわ」
「はい、うけたまわりましたー!」
夕方なのに日替わりランチを出しているロウシュさんは後で問い詰める。
まあ、そのことはいったん置いておいて。
正直、今日が勝負だと思っていた。
客の前に姿を現して『獣人』の子供たちが接客し、直接冒険者たちと関わる。
敵性民族という印象の強い獣人の子供たちに絡んでいく輩が必ずいると思われた。
そこをこの子たちが乗り切れるか。周りの大人たちがフォローできるのか。
それ次第では、この子たちの将来に関わってくる。
そんな分水嶺だと思っていたのだが、思いのほか順調でよかった。
むしろ、可愛がられている感じだな。さすがにいたいけな子供たちに悪意をぶつけるような奴はいないか――
「おい! そこの獣人族のガキィ!」
おっと? いかつい上半身裸の禿げ頭冒険者が絡んでいったか?
ここはオレが止めないと――
「腹減ってないか? これ食うか?」
え?
「こんなに小さいのに働いているなんて偉いな! さあ、たくさん食え!」
なんと、単に口調が乱暴なだけだったらしい‥‥‥。
その日の夜は、いつの間にかオレの部屋からベッドが撤収されており、面積の広くなった床にビェラさんも含めて5人で寝ることになった。どうしてこうなった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝起きるとビェラさんが3人のケモミミをモフっていたが、それをスルーして皆に朝の身支度を促す。
そして、3人(+ビェラさん)を引き連れてギルドに行く。
年少者二人は、何も言われずとも食堂の掃除に向かって行く。
そして、初心者講習を終えた冒険者のウィレミは、今日から冒険者としての本格的な活動に入る。
ここでまた、一つの壁が訪れる。
さすがに、12歳で登録したばかりの子供がソロで活動するのには無理がある。
だから、『パーティー』を組まなくてはならない。
当然のことながら、このギルドに登録しているのはウィレミ以外は全て『人族』だ。
つまり、ウィレミは獣人族であることを受け入れてくれる人族のパーティーを探さなければならない。
オレはウィレミを伴い、窓口のミリアムさん15歳のところに行き、
「パーティーメンバーの募集を出してほしい」
そう依頼する。
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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