第37話 ケモミミとの共生
「こらこら、ここで脱ぐんじゃない!」
虎獣人ケモミミ3姉弟を保護し、飯を食わせ、時刻は昼と夕方の中間の午後。
この3人は、食事もろくにとれていない環境で過ごしており、当然のごとく身体も洗っていない。
ということで、まずは身体をきれいにしようとオレの住むギルドの簡易宿泊所の方に連れてきたのだが――。
ここには、というか、この異世界には風呂というものは王侯貴族しか入れないような高級品扱いのようで、当然ここにも街のどこにも風呂などない。
せいぜい、冷たい水で体を洗ったり、拭くのが関の山だ。
あったかいお湯で体を洗うなど、薪などの燃料が豊富な家か、生活魔法か火魔法の使い手でもいなければなかなか難しい。
ちなみに生活魔法の使い手はそれなりに居るのだが、魔力(MP)が潤沢という人は少ないため、その魔力の多くは炊事のために使われる。
そんな状況は獣人たちの国でも同じようなものだったらしく、身体を洗わせるために、オレが桶に火魔法と水魔法を使って湯気の立つお湯を準備したとたんに、3人は喜び勇んで一斉に服を脱ぎだしたのだ。
ここは簡易宿泊所にあるオレの部屋の入り口の外側、つまり屋外だ。
そんなところで、いかにまだ子供だとは言え女の子が服を脱いじゃいけません!
ん? そういえば、さっきウィレミは「姉弟のためなら裸にだってなる!」とか言いかけてたよな‥‥‥。
にもかかわらず、羞恥心のかけらもないこの脱ぎっぷり。
さてはこいつ、「裸になる」ってことの意味もろくに知らずにさっきの言葉を口走りやがったな!
ちくせう、こちとら、さっきのお前の発言であやうくロリコン鬼畜扱いされるところだったというのに。
必死で言い訳したオレの心と時間を返してほしい。
「あらナカムラ。あなたはやっぱり幼女に興味があるのねあのねのね。」
「違う!」
そしてこんなタイミングで現れる、変なオヤジギャグ? の使い手ビェラさん。
「いいところに来ましたビェラさん。女性同士、この子たちを洗ってください。」
「まあ、幼女だけじゃなくて熟女のわたしの裸までも見ようとしてるのルネッサンス。」
どうしよう、誤解がとまらねえ。
まあ、とはいってもビェラさんのそれはたちの悪い冗談であろうことは分かっているのだが。
それにしてもビェラさんよ。熟女だなんて。あなたはオレに言わせればまだピチピチの部類に入るのだが?
あまり自分を卑下してほしくはないものだ。
「ならば、期待に応えて脱ぎま醤油さし」
「脱ぐなー!」
おいおい、ビェラさん本当に脱ぎ始めちゃったよ!
「えーい、ストーンウォール!」
オレは必死に土魔法を発動!
そこには石で区切られた、周囲から見えなくなるような洗い場が完成した!
ナカムラは『土魔法Lv3』を覚えた!
ふう、なんとかなったな。
それにしても、最近スキル入手のハードルが妙に低い気がする。
そう思ってスキル一覧を見て見たら、『実践者~為せば成る』という、昭和の根性論みたいなスキルが生えておりました。
確かに、福祉には『実践あるのみ』というお言葉を残した先生がおられるので、さもありなんとは感じるが、昭和チックなのはなぜなのだろう。
ちなみに、今回作成した石壁はビェラさんにそのままにしておけと言われ、そのまま簡易宿舎の女性用体洗い場として重宝されるのだった。
そして、バスタオル1枚のみを巻き付けて、「ちょっとだけよ~ん」と以前も使ったネタを繰り返しながら出てきたビェラさんをスルーしつつ、獣人チビッ子どもをわしわしと拭きながら、ついでにケモミミも堪能しつつ、新人受付嬢のミリアムさん15歳が用意してくれた着替えを手渡す。
身体を洗ってさっぱりすると、これまでの緊張が解けたのか3人ともすぐに睡魔に襲われたようで、とりあえずオレの部屋で休ませる。
3人が仮眠から目覚めるころにはもう日も傾いており、そのままギルドの食堂に夕食を食べに行く。
夕方のギルドはちょうど依頼を終えて報告しに来る冒険者たちでごった返す。
そんな混雑の中に、この街では見ることもないケモミミの獣人っ子たちが食事を摂っていると、どうしても衆目が集まってしまう。
昼は空腹で食べるのに夢中になっていたウィレミ達3人も、さすがにその視線には気づいてバツの悪そうな感じになってしまうが、そこは我らがギルドマスター。
ケモミミ3姉弟を守るように仁王立ちしてくれており、強面の冒険者たちも、ケモミミに興味津々な女冒険者たちも声をかけられず遠巻きに見ているだけとなる。
食後は少し休んで就寝となるのだが、3人とも妙にオレになついてしまったことと、昼に仮眠をとったオレの部屋が安心するとのことで、予想はしていたがオレの部屋で寝ることになった。
ちなみにオレの部屋は、以前も言ったかもしれないが簡易宿泊所の一室なので、日本の4畳半アパートくらいの狭さだ。
いくらチビッ子とはいえ、3人もそこで横になるとさすがに狭い。
ベッドはウィスラとウィトンのチビッ子二人組に譲り、オレは床のところに毛布を敷いてウィレミと一緒に眠る。
なお、寝ている途中でビェラさんらしき人が枕を持って訪ねてきたのだが、この狭さに辟易したのか素直に戻っていった。
こうして、ケモミミたちを保護した怒涛の一日は終わりを告げた。
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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