第36話 『伴走者』

 人族の街という、周りが敵だらけの街の廃屋の中で、お腹を空かせて寄り添い、周りにおびえていた虎獣人3姉弟のウィレミ、ウィスラ、ウィトン。


 この3人を、オレは保護して冒険者ギルドに連れてきた。




 当然のことだが、彼女らは明日も、明後日も、メシを食べて生きていかなくてはならない。



 その為に、彼女らに今後どうしたいのかを尋ねたところ、


「このままここに居たい」


「そのために自分たちは頑張る」



 という意向を聞くことが出来た。




 ならば。






 12歳でギルド登録できる歳のウィレミには冒険者になってもらう。


 そして10歳のウィスラ、8歳のウィトンには、ギルドの食堂でお手伝いをしてもらう事とした。

 もちろん勉強もしてもらうぞ?




 まあ、正直言っていたいけな子供たちを働かせるというのは気が重い。


 この年頃の子供たちは、学びと遊びに全力で取り組むべきなのだ。



 だが、そうも理想通りに行かない状況というものもある。


 これは、異世界だからというか、現代日本でも他人ごとではなくなった問題、それは子供の貧困である。


 食料品や生活物資を手に入れるのに対価が必要である以上、親が不在だったり親の庇護下にいることのできない子供、あるいは親に扶養能力がないだとか、扶養する意思がないなどの庇護を得られない子供は、その対価を『社会』が負担するか、子供自身で稼ぐしかないという現実がある。


 クソむかつくがこれが現状だ。



 そしてさらに、このケモミミ3姉弟には、この国ではマイノリティであるという複合的な問題も存在する。


 ソーシャルワーカーとして、この複合的な問題は、ひとつづつ、まさに玉ねぎの皮をむいていくがごとくに丁寧に解決していかなくてはならないのだ。



 それに対応する方策として。


 まずは貧困。要は生活費の捻出だ。


 これについては、まずはウィレミの『冒険者登録』。


 この異世界でも12歳はまだ成人ではなく、日本でいえば中卒の16歳の子供が生活のために就職せざるを得ないといった感覚になってしまうが。


 もちろん、冒険者の活動だけではなく折を見て勉強の機会を設けたい。


 これで、一応は収入を得る手段は確保した。


 それと合わせ、ウィレミ一人で3人分の生活費に足りるか足りないかは別としても、これでこの3人が『働きもせずにタダ飯食っている』という風評は避けられる。


 ウィスラ、ウィトンの『食堂でのお手伝い』にも同じような目論見がある。



 だが、これらの方策が及ぼす効果に期待するところはそれだけではない。


 

 それは、マイノリティの部分の問題解消をも狙ってのことである。





 そもそも、なぜマイノリティ、というか社会的少数者は、なぜ差別を受けるのか。


 それは、確かに人間の生存本能に根差している奥深いものも存在する。


 人間は、自らの生存を図るために、異質なものを遠ざけるという本能があるのだ。


 自分と似た境遇の仲間たちと共同で守り合って生活したいと考える反対方向。


 自分と違う肌の色、考え方、話す言葉、容姿の異なる障害者や理解の及ばない認知症高齢者などなど。


 そういった異質なものを遠ざけるために、本能に嫌悪感が刻まれる。




 では、それを解消、または軽減するのにはどうすればいいのか。


 まず、人は何を持って『異質』なものだと判断するのか。


 その根本は――


 


 『知らない』ことだ。




 たとえば『幽霊』や『宇宙人』。


 人間は、そのようなよくわからないものに古来より恐怖を抱く。


 周りの状況がわからなくなる『暗闇』も同様だ。




 ならば、『知って』もらえばいい。



 ケモミミを付けた、普段見ることのない獣人族。


 かつての戦争の相手という事で敵性民族という思い込みがあり、それに合わせて野蛮であるとか粗暴であるとかの枝葉な要素も増えているだろう。


 だが、姉弟を養うために幼いながらも冒険者として頑張っている姿とか、一生懸命食堂の手伝いをしている姿だとかを、周りの人たちに実際に目にしてもらう。


 たとえケモミミのある見た目の違う種族であろうとも、中身はその辺に居る、守るべき子供達と同じであるという事を。


 純粋な心、家族を思いやる暖かな心を持っているという事を知ってもらいたい。




 最初はトラブルもあるだろう。


 そこは、強面のギルマスに抑止力になってもらおう。




 だがいずれ、


 ウィレミ、ウィスラ、ウィトンの3人がいたいけな子供達だと理解してもらえたのなら。


 そのことを知った人たちは、彼女らを必死で守る側に回ってくれるだろう。


 いかつい冒険者たちも、地域の老人たちも。


 そして、『こども食堂』を訪れる孤児院の子供達にはぜひとも良き友人になってもらいたい。

 


 そんな思いを込めて、彼女らをこの人間の街の表舞台で活動することを勧めたのだ。


 もちろん、好奇の目を実際に受けてしまうのは彼女たちだ。


 そんな彼女らを、オレは全力でサポートし続ける覚悟を新たにした。



 支援者は、そしてソーシャルワーカーは、一時の支援のみでは終わらない、


 社会的困難を抱えた人たちの、『伴走者』なのだから――。





ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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