第34話 ケモミミマイノリティ
マイノリティとは。
「少数」「少数派」を意味する英単語が由来であり、日本で「マイノリティ」という場合、ほとんどは「社会的少数者」のことをさしている。
マイノリティの種類には利き手や人種、性的指向など様々であるんだが、この場合は、人族の国の中に紛れ込んでしまった、ごく少数の獣人族といったところか。
地球における人種のマイノリティに近いかもしれないな。
たとえば、日本という単独民族の国に来た異国の人とかといった感じかな。
日本では、外国人だからという理由でアパートへの入居を断られたりとか、公衆浴場への入場を断られたりといった事例がある。
そんな、不平等、不公平が今のこのご時世でも普通にまかり通ってしまっている。
マイノリティは『社会的少数者』であり、その多くは『社会的弱者』でもある。
地球では、様々な差別、抑圧、人権侵害に結びつく場合が多い。
歴史を見ると、その最たるものはナチスによるユダヤ人の大量虐殺が最たるものであろう。
この異世界の、人族の国における獣人族はどうなるのか。
5人組平凡ナンバーワンのズビニェク君の言葉からもわかるとおり、命を奪われるまでとは言えなくても、身柄の拘束は行われるだろう。
この場は、衛兵なり騎士団なりに報告するのがこの異世界の常識であるのだろう。
だが。
だがしかし。
こんないたいけなケモミミの子供たちをそんな辛い目に合わせることなどできようか!
それに、オレはギルド事務員でもあるが、その魂には日本にいた時のソーシャルワーカーとしての矜持が染みついている。
マイノリティである、社会的弱者に手を差し伸べない訳にはいかないじゃないか!
「よし、オレが保護する。」
「えっ? でも、ナカムラさん、衛兵に報告しなくていいんっすか?」
「報告はするさ。ただし、オレが保護してからだ。」
「でも、いいんですか? ナカムラさんが罪に問われたりとかは‥‥‥」
「もしかしたらそうなるかもしれない。だが、見て見ろ、その獣人の子供たちを。一番年上でもお前らとほとんど同じ、他の二人は明らかに小さな子供じゃないか。そんな子供たちを、種族が違うというだけで辛い目に会わせてお前らは平気なのか?」
「んー、でもー、いいのかなー。」
「大丈夫だ。取れるかはわからないが、責任はオレがとる。」
「大人、責任。覚悟、大変。」
「よし、話は決まったな。」
オレは、こちらにおびえて廃屋の隅で縮こまる獣人族のケモミミ子供たちに近寄っていく。
◇ ◇ ◇ ◇
「やあ、こんにちは。少し話をさせて欲しいんだが、いいかな?」
ケモミミたちは、一番年長と思われる子がこちらを睨みながら他の二人をかばう様にして腕の中に抱きしめている。
「‥‥‥」
予想通り、ケモミミたちは警戒して黙して語らない。
「君たちはどうしてここにいるんだい? もしよかったら事情を教えてくれないか? ああ、悪いようにはしない。叩いたりもしないし、怒ったりもしない。約束する。」
そして数分の沈黙の後、
「‥‥‥げてきた」
「ん?」
「奴隷商人から、逃げてきた。ボクたち、売られたんだ。村が、凶作で。」
「なんと‥‥‥」
「ボクたち、奴隷として売られた。人族の、貴族に買われた。そこに連れていかれる途中で、馬車が魔物に襲われて、商人が逃げた。だから、逃げられた。」
なるほど、なんとなくわかってきた。
どうやら、日本のラノベのテンプレじみた出来事があったようだな。
「その馬車に乗っていたのは、お前ら3人だけか?」
「さん‥‥‥にん? 三匹じゃなくて? 三人って呼んでくれるの? 人族なのに? ボクたち獣人族なのに?」
「ああ、もう一度聞くぞ? その奴隷商人の馬車に乗っていたのは、お前ら3人だけか?」
「う、うん! ボクと、妹と弟の3人だけだよ。」
「そうか、よく教えてくれた。それで、逃げた後はどうやってここまでたどり着いたんだ?」
「その商人、魔物に殺されてた。たぶん、つうこうぜいってやつを払いたくなくて、がたがたした道を走っていたし、護衛も雇っていなかったから、それで、殺された。ボクたち、檻の中にいたから助かった。魔物があきらめていなくなってから、どうにかカギを開けて逃げ出した。そこから、商人の持っていた食料とか、かわいそうだったけど殺されたお馬さんのお肉を食べながら何日か歩いた。そしたら、街があったから、中に忍び込んだんだ。」
「そうか、辛かったな。よくここまでたどり着いたな。大変だっただろうに。だが、もう大丈夫だ。お腹減っただろう? さあ、オレたちと一緒にご飯を食べに行かないか?」
「‥‥‥いいの?」
「ああ、もちろんだ。腹いっぱい食べさせてやるから覚悟しろよ!」
「「「うん!」」」
おお、ちっちゃいケモミミたちもようやく口を開いてくれたな!
それにしても、
「妹や弟を守りながら、お前はよくやった。とっても男前だぞ!!」
「えっ?」
「えっ?」
「ボ、ボク‥‥‥」
「ボク?」
「ボク、女の子だよ?」
「「「「えーーーーーーーー!!!!!」」」」
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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