第33話 ケモミミ万歳

「家庭訪問していたら、ちょいとヤバいの見つけちゃったんスよねー」


 ロスラフ君の後を付いていき、路地裏に来たところでこんな話をされてしまった。


 そこには、ヴィクシム君たち4名も顔をそろえて待機しており、何だかほんとにヤバそうだ。

 なんか嫌だなー。


 日本にいた時もこんなことがあったなー。


 いわゆるゴミ屋敷とか、どうやって生活しているかわからない家とかに訪問したりすると、生ごみや複雑な臭いとゴミに出会ったりとか、中で骸になっていたりとか、びっくり箱さながらにいろんな出来事があったもんだ。


 もしかして今回も、死体とかあるのかな?


 でも、この命の軽い異世界だったら死体くらい珍しくないのでは?




「こっちっス」


 なんて考え事をしていたらロスラフ君に促される。


  

 そこは、路地裏の陰にある廃屋。


 もはや扉とも窓とも言えない大きな壁の穴があり、その中に身を潜めて蠢くモノ。


 壁の穴から中をのぞくと‥‥‥




「――うおっひょー! ビバ! 異世界!」


「‥‥‥ナカムラさん?」



 なんといういことだ!


 オレは、オレは出会ってしまった!


 異世界と言えば‥‥‥

















「ケモミミだーーーーーーーーー!!!!!!」



 オレの目に入ったのは、頭頂部の両脇でピコピコ震えるネコミミが6つ。


 なんと、そこに居たのはいわゆるケモミミ、獣人の少年少女であった。

 




◇ ◇ ◇ ◇


 ここ、テヒメラス伯爵領ロレリアムの街が所属するのはイズァムーグ王国という国。

 ラムォデ教という、女神ラムォデを崇める一神教を国教とする、人族が治める国である。



 この国は、80年ほど前まで、隣国である獣人たちの国、ミテア獣王国と戦争をしていたらしい。

 なんでも、王国と獣王国との間にある緩衝地帯の利権をめぐっての争いだったんだとか。


 その緩衝地帯というのは、海のあるマラナヴァの街という、街一つが一つの国というマラナヴァ海洋国から伸びる街道が通っている平原であり、中立である海洋国との貿易を有利に行うためにはぜひとも押さえておきたい位置にあり、この地を巡って獣王国とは長年争いを続けていたのだそうな。


 そんな泥沼の戦がなぜ80年前に終結したのか。

 

 どうも、それには『迷い人』と呼ばれる異世界転移者が関わっているらしいのだ。






 海洋国との貿易による利権をめぐっての長年続く2国間の争い。


 一定の割合で失われ続ける命。



 過去にこの異世界に転移したと思われる『迷い人』は、マラナヴァ海洋国にその居を構え、国王とまではいかなくても宰相のような中心的な役割を担っていたのだとか。


 その迷い人は、利権を求めての度重なる戦乱の最中、両国がにらみ合う戦場のど真ん中にその姿を現し、こう叫んだそうだ。


「♪ケンカをやめて~ 二国を止めて~」


 お塩のために争わないでと音楽著作権を無視したようなその歌声は両国の人々の心の奥底まで染みわたり、長年にわたる戦争は終わりを告げた。


 マラナヴァ海洋国と2国は対等な通商条約を結び、緩衝地帯に伸びる街道の通行税はマラナヴァ海洋国が管理することで同意を見た。


 現在では、その『マラナヴァ街道』から枝分かれする両国に通ずる関所に警備兵が置かれてのにらみ合いは続いてはいるものの、表立った戦闘は行われてはいない。



 ただし、国民の感情のしこりというものは根強く残り、人族は獣人族を。獣人族は人族をそれぞれ憎み、嫌いあっている。


 韓国と北朝鮮かな?






 まあ、ともかくそんな国家間の背景がある中で、人族の街であるここロレリアムの街の中の廃屋から、獣人族の子供たちが見つかってしまったのだ。




◇ ◇ ◇ ◇


「‥‥‥ナカムラさん、どうします?」


 頭脳担当マーシュ君が問いかけてくる。



「どうしますって言われてもな。この国で、獣人たちの扱いはどうなっているんだ? ああ、すまん、説明してなかったな。オレはこの変わった名前の通り、多分この国の人間じゃない。以前の記憶もなくしているんだ。だから、こういった場合の常識がわからない。」



「えー、そうなんすか。そうは見えないっすけどね~」 


「獣人、敵性。報告、捕縛。」



 おいおい、なんか物騒な単語が羅列されたんだが?



「今のルニームの単語から察するに、騎士団や警備隊に報告しなければならないという事か。そして、その場合はこの子獣人らは拘束されると。」


「だいたいそんなとこー。でもー、多分前例ないよー?」


「そうだな、俺たちも獣人を見るのは初めてだからな。」



 そうか、考えてみればこいつらまだ13歳のガキなんだしな。人族の国で暮らしているんだから、獣人族を見たことがないのも不思議ではない。

 それに、ここロレリアムの街はそれなりに大きいのだろうが、国全体から見れば田舎の部類だ。


 今は明確には敵対していないとはいえ、獣人族の人がこの街をわざわざ訪れることはないのだろう。



 ふむ、ということは。


 ふむ、目の前にいる、この国ではに属する、獣人族の子供たち。


 この子らの処遇は、今この場にいる唯一の大人であるオレが判断しなければならないという事か。







ーーーーーーーーーー


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