第32話 『家庭訪問』での邂逅
二日間にわたるワークショップを終えた翌日。
オレがギルドに出勤すると、すでにヴィクシム君たち5人は食堂のテーブルに座って打合せを始めていた。
「あ! ナカムラさん! おはようございます!」
ほんっとおまえらいい少年になったな。
劇場版でいい人になるいじめっ子以上の変りようだ。
「俺っちたち、大事なこと見逃してたんすよ~」
「避難。集合、場所、設備。」
「つまりですね、有事の際に要救助者を避難させるところまでは昨日までの話し合いの通りなんですが、いざ魔物のスタンピードがあったときなどに、どこに避難させるのかという議論が抜け落ちていました。我々の失策です。」
「どこに連れてけばいいのかー、決めておかないと混乱しますよねー。」
おお、いいところに気が付いているな。
正直、今回の『要救助者マップ』の作成はこの少年たちに地域や社会のことを考えてもらうきっかけくらいにしか考えていなかったのだが、まさかここまで本格的な方針を打ち出してしまうとは。
「それで、早くから集まって話し合ってたんだけど、いい意見が出ないんだ。ナカムラさん、助言をお願いしたいんだけど」
ふむ、助言か。
本当は、自分達で結論まで持って行って欲しいところだが、ここまで頑張ったのならば、これくらいは手を差し伸べてもいいだろう。
「わかった。まずは、公的な3拠点、冒険者ギルド、騎士団詰所、街長の庁舎の近くについては、避難場所はそこでいいと思う。」
「「「「「はい」」」」」
「では、残りの地域。つまりは各自警団に避難誘導を任せる地域の避難先という事になるが、家庭訪問をするにあたり、まずはその自警団の団長に話を聞けばよい。『この近辺で避難に適した場所や建物はないか』とな。そうすれば、広場とか、厚い壁を持っていたり、地下に広い貯蔵庫のある家とかを教えてもらえるだろう。で、そこを避難場所に設定していいかという交渉もその家主に行うことも必要だな。」
「「「「「なるほど!!!」」」」」
オレが助言をすると、それを聞いた彼ら5人は何やら打合せをした後に張り切ってギルドを出て行った。
おそらくは、昨日の話の通りギルド周辺の家庭訪問に行ったのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇
「よお、順調そうじゃねえか、ナカムラよ。」
「あ、ギルマス。そうですね、ここまでうまくいくとは思ってなかったですけどね」
「これはナカムラのお手柄。お手柄籾殻ガラガラヘビなのよ。」
ギルマスと、受付嬢チーフのビェラさんが話しかけてくる。
「それにしてもよ、その、なんだ? ひにんまっぷだったか? それが本当に動きだせばこの街は変わるぜ!」
「その通りだと思います。あとギルマス、避妊ではなく避難マップです。特に冒険者たちにとっては、これまでの『ならず者』といったイメージを覆すきっかけにもなりマスオさん。」
うん、確かに。
それに、それを主導しているのがこの街を将来担うヴィクトル君たちというのも意義深いと思う。
クソガキどもの矯正のために始めたことが、なんと矯正を通り越して街の発展に寄与するなんて。
まさに、雨降って地固まるだな。
そして、来ましたオレの『器用貧乏』!
ヴィクトル君たちのワークショップの指導をしたことで、『指導者Lv4』のスキルが生えてしまったぞ。
今でもすでにひどいビェラさんのオヤジギャグ? が指導者効果でさらにひどいことにならなければいいのだが。
いや、別にオレがオヤジギャグを指導しているわけではないのだが‥‥‥。
よし、ヴィクシム君たちが戻ってくるまでは厨房に入って『ウスターソース』の試作に入ろう。
トマトが手に入ったのがでかいよな。穀物酢はすでにこの世界に存在していたし、あとは玉ねぎとリンゴは確保したからレモンのような果実とスパイス類の調整で何とかなると思うのだが。
あ、塩を効率的に手に入れる方法も考えておかないとな。
塩は稀少なわけではないのだが、この地は海からの距離があるため若干お高いのだよ。
◇ ◇ ◇ ◇
オレが厨房でロウシュさんたちとウスターソースについてあーでもないこーでもないと騒いでいると、例のボンボン5人組のチャラ男担当、ロスラフ君がオレを呼びに来た。
「‥‥‥あの、ちょっといいっスか?」
「どうした?」
「えっと、ここじゃあれでアレなんで、ちょっと外に来てもらってもいいっスか?」
「ああ、それはいいんだが‥‥‥」
どうしたんだろう。
チャラ男が真剣な表情をしていてチャラくない。
オレはロスラフ君に促されるまま、彼についてギルドの出入り口から外に出た。
◇ ◇ ◇ ◇
ロスラフ君は、外に出ると話をしてくるかと思いきや、そのままオレを伴って歩きはじめ、通りの脇道を入って建物の裏側に回り、ようやくそこでその足を止める。
そこには、ヴィクシム君をはじめとする他の4人がすでに揃って待ち構えていた。
‥‥‥お礼参りかな?
「どうしたんだ? こんな人気のないところでないと話せないことか?」
オレはちょっとビビりながらもそう問いかけた。
すると、ロスラフ君が、
「家庭訪問していたら、ちょいとヤバいの見つけちゃったんスよねー」
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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