第31話 マップ作成の実際
領都テヒメラスの中等学院に通う、ここロレリアム街長の息子ヴィクシム君と、その取り巻きたちの5人組。
この街のサラブレッドである彼らは中等部の『戦闘課』に属し、その過程の中で実践的な現場実習的な経験を積むべく、地元であるここロレリアムの街の冒険者ギルドに登録しに来た。
そして、初心者講習にイキがって生意気な態度で臨み。オレを含む
そして親代表である街長から「社会の厳しさを叩きこんでほしい」と依頼され、その
で、社会や街の民衆のことを知ってもらおうと、家庭訪問をやらせ、その意図(
そのワークショップの結果、このマップの活用の仕方として、
①騎士団詰所、冒険者ギルド、街庁舎の3拠点は、各々徒歩30分圏内の範囲の救助に当たる。
②上記の範囲以外の地域は、各拠点の自警団が救助を担当することとする。
③以上のことから、各家庭訪問の集計結果は各所で共有する必要がある。
という方針が結果として出されたのである。今ここ。
真剣な話し合いの元にこの結果をひねり出した5人は、皆一様にやりきったような満足そうな顔をしている。
だが。
これで終わりではないのだよ!
「よし、今日のところはこれでおしまいだ。明日は、今日出されたこの方針をどのように実現していくかという内容でワークショップを行うから、考えをまとめておくように。では、解散!」
やり切ったドヤ顔をしていた5人は、一瞬にして光沢の消えた灰色の質感に包まれていた‥‥‥。
◇ ◇ ◇ ◇
「はい、おはようございます。皆さんが静かになるまでに5分待ちました。」
「「「「「‥‥‥最初から静かですが」」」」」
すまん。言ってみたかったんだ。
「では気を取り直して。昨日の話し合いで出された『要救助者マップ活用の方針』を実際にどのように進めていくかについての話し合いを始めよう。」
昨日すでにワークショップの空気は味わったはずなので、今日はしょっぱなのアイスブレイクは無しだ。
若干元気のないように見えた5人だが、さすがに話し合いが始まると昨日の延長で様々な積極的な意見が出される。
「マップというからには、実際の地図に各拠点や自警団の受け持ち範囲を明示するべきだ」
「街全部の各家を家庭訪問って、手が足りないっしょ。街長から冒険者ギルドに家庭訪問の依頼を出してもらったりしちゃったら?」
「依頼、金。有用性、理解必要。(依頼を出すには金がかかる。その金を出してもらうために、街長や街の幹部にこの活動の有効性を知ってもらわなければならないだろうな)」
「だが、俺たちがいくら街長や幹部の息子だからと言って、所詮はまだガキだ。話を聞いてもらうためには、ある程度形になったモノを見せる必要があるんじゃないのか?」
「だったらー、まずは冒険者ギルド周辺の家々を訪問してー、ギルド周辺だけのマップを作ってみてー。それを元に説明するってのはー、どうでしょう?」
「いい考えですね。ではその方向で行くとして、家庭訪問のやり方も一考する必要がありますね。この前と同じように拒まればかりいては、いつになってもマップが埋まりませんからね」
「名乗り。目的。説明。(冒険者ギルドから、有事に要救助者を迅速に救助に向かうためのマップを作っていることをきちんと説明すれば理解が得られやすいのでは?)」
「それいいじゃん! だったら、家庭訪問のときにもマップ持ってちゃう? それ見せれば楽勝っしょ!」
「あー、でも、自分ちに救けが必要な家族がいるってー、知られたくない人もいるのかなー。そんな人たち、答えてくれるかなー。」
「ふむ。ならば、聞いた家族の情報は、有事の時以外は冒険者ギルドや騎士団、街の幹部や各自警団の長以外には決して漏らさないという約束も必要だな。」
「これは、口頭だけでなく、何かしらの文面が必要になりますか‥‥‥。となると、街長には紙代も無心しなくてはならなくなりますが‥‥‥」
「紙、不要。掲示板、広報。(必ずしも紙を配る必要はないんじゃないか? 街角や各所の掲示板とかにその内容を掲示してもらえれば、理解してもらえるんじゃないかな?)」
などと侃々諤々。
もはやファシリテーターのオレが口をはさむ余地もなく話し合いは進んでいく。
というか、無口なルニーム君の単語の羅列を皆が理解できているのがすごい。さすがは仲間といったところか。
それにしても、こいつら優秀過ぎる。
大人でも、ここまで建設的で実のある話し合いを行うのは難しいのではないだろうか。
最初のクソガキっぷりが嘘のようだ。
とりあえず、こいつらに「社会の厳しさを叩きこむ」という依頼はそれなりに達成できたのではないだろうか。
物事は、自分の思っている通りには進まない。
物事を進めるには、周りの協力が必要不可欠。
周りの協力を得るには、真剣に考え、かつ、真摯な態度で臨むことが求められる。
こういったことを学んでくれてたらいいなと思う次第である。
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