第30話 異世界クソガキワークショップ
「では、話し合いを始める。まずは、今回の『優先的に救助が必要な人の情報を事前に調査しておくこと』についてどう思うか聞かせて欲しい。あ、発言は挙手して行うことにしよう。」
すると、さっそくこのグループのリーダーにして街長の息子、ヴィクシム君が挙手をする。
「この試みはとてもいいことだと思う。逃げるチカラを持たない人にすぐ救助の手を差し伸べることができるからな。ただ、思うところもある。これは、冒険者ギルドではなく、街の騎士団や衛兵で行うべきことではないのか?」
それに対して、取り巻きの中の頭脳派、マーシュ君が挙手をして、
「ヴィクシム様のおっしゃられるように、これはとても有意義な取り組みです。そして、これを騎士団などで行うべきだという意見にも賛成ではあるのですが、冒険者ギルドが行うという意義もあると思うのです。つまり、騎士団などよりもフットワークの軽い冒険者たちがいち早く救助に動くことで、より素早い対処が可能になるという点です。」
ふむ、出だしはいい感じだな。
今のところこの二人が発言をしているが、残りの3人は様子を伺っているという感じで挙手は見られない。
実際、日本でのワークショップが行われる際にもこうして積極的に発言する人と、消極的で周りを伺っている人に分かれがちなんだよな。
気持ちは分かるが、これだと積極的な議論からくる『シナジー効果』を生み出すことにはなりにくい。
ここは、全員に発言を促して行くか。
「今の二人の意見について君はどう思う? えーと、たしかズビニェク君だったな」
「えーと、同じく有意義な取り組みだと思います。あ、さっきの話ですけど、冒険者の方が動きが速くて先に救助したら、後から騎士団が同じ人を助けに来てももう誰もいなくて無駄というか‥‥‥うまく言えないんですけど」
なるほど。
そこで頭脳派のマーシュ君が挙手。
「では、ズビニェクとしては、要救助者の情報を冒険者ギルドも騎士団も持っていると、救助対象がかぶったりして逆に効率的ではないということか?」
「あ、うん。そんな感じかな」
おう、イイ感じだ。
このワークショップで、オレは『ファシリテーター』として議論の内容に助言を加えたりはするが、決して司会役ではない。
参加メンバーの中から自然と司会役が出てくることはいい傾向だな。
そこで新たにロスラフ君が挙手。
ロスラフ君は‥‥‥うん、チャラい感じだな。
「早い者勝ちでよくないっすかー? 騎士団とか、ギルドとかから近い場所から回っていけばそんなかぶらないっしょ」
「うん、適当にも聞こえるが、それはそれで有効だな。そういえばナカムラさんは家庭訪問する家の範囲を騎士団とかギルドとかから徒歩30分圏内の家に限定していましたよね。それは、今のロスラフが言ったような意図があってのことですか?」
お、司会役のマーシュ君からオレに質問が来たな。
「まあその通りだ。実際は、それ以上各拠点から遠くなると手が回らないという現実的な問題がある。残念ながらすべての人を救うことは不可能に近いのでな」
「それだと、各拠点から離れて住んでいる人は見殺しにするということですか!」
おっふ、ヴィクシム君よ。お前は熱血な部分も持っていたのか。だが落ち着け。これはワークショップなんだ。
怒りの発言は決して建設的な方向に向かわないぞ?
「今のオレの言い方だとそうなってしまう。それを良しとしたくないのであれば、何か他のアイディアが必要になると思うのだが? その辺の意見も皆に出してもらおうか」
すると、いまだ発言していない最後の一人、ルニーム君が挙手をする。
「‥‥‥拠点、分担。他、自警団。」
お前は無口キャラか!
「‥‥‥えーと、今のルニームの言いたいことは、ギルドや騎士団などの各拠点は担当地域を決めて救助範囲を分担し、その範囲外の住民の救助は各地域の自警団に任せればいいという事か?」
頭脳派マーシュ君さすがだな! わずか単語4つの意味するところをよくぞ読み取れたな!
マーシュ君の解説? を聞いてルニーム君が頷く。もう少ししゃべろうぜ?
と、皆の意見が次々と出て、その後も積極的な議論が行われ、結論は次の通りとなった。
①騎士団詰所、冒険者ギルド、街庁舎の3拠点は、各々徒歩30分圏内の範囲の救助に当たる。
②上記の範囲以外の地域は、各拠点の自警団が救助を担当することとする。
③以上のことから、各家庭訪問の集計結果は各所で共有する必要がある。
といった感じに結論が出され、ワークショップに参加した5人はそれぞれやりきったような清々しい顔を見せていた。
うん、頭を使ったからね。
脳汁出して頑張った達成感という喜びを感じるがよい!
だがしかし
諸君、これで終わりではないのだよ!
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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