第28話 ミーティング

 午前中の『突撃! 街の家庭訪問!』を終えて、オレたちは冒険者ギルドに戻ってきていた。


 昼食である『日替わり定食』を各々受け取り、皆でテーブルに着く。



 あ、そういえば、ギルドの食堂で『日替わり定食』を始めることになったんだ。


 厨房のロウシュさんからの、「早くレシピを教えやがれ」という熱烈なリクエストに応えてのことだ。まあ、日替わりなのでレシピというのとはちょいと違うのだが。


 『お子様ランチ』と一緒にオレがふと漏らしてしまった『日替わり定食』という日本のメニュー名。


 想像はつくかと思うが、その日ごとに内容の異なる、けれどもその日は皆同じ内容になるという画期的なメニューである。


 これの導入により、食材の大量発注によるコストカットが可能になるという経済的な理由はもちろん、毎日通ってくる孤児院の子供たちに毎日栄養バランスの取れた食事を提供できるというメリットまであるのだ。


 実際、『こども食堂』をはじめて数日は、試しに子供たちに注文を取ってみたのだが、ものの見事に『ポテトフライ』への注文が殺到し、さすがに毎日炭水化物と油まみれの食べ物だけでは子供たちの身体によくないと周りの大人たちは感じたようだ。


 そして今日の日替わりのメニューは、ピーツを煮込んだポトフ的なスープと、日本謹製、『ひき肉』という概念を持ち込んだ魔物肉(オーク肉とホーンラビットのあいびき)のミニハンバーグ。そして黒パンだ。


 ハンバーグには、ロウシュさんの妻、ラドミラさんが作り方をマスターした『トマトケチャップ』が贅沢にかけられている。そう、トマトケチャップも見事この食堂のメニュー入りを果たしているのである。


 トマトケチャップが安定して作られる様になったという事は、『お子様ランチ』もそろそろご披露される頃だと思うのだが、いまだ完成には至っていない。

 なぜなら、『エビフライ』と『ナポリタン』、『タコさんウインナー』と『プリン』の目途が立たないからだ。

 ケチャップライスとポテトフライ、ハンバーグでいいんじゃないかという意見もあるが、やはりこだわりたい日本人であるオレがストップをかけている。エビフライ食いたい。



 と、まあ食事についての考察を進めている間にヴィクシム君たちの昼食タイムは終わったようだ。

 準男爵家や街の幹部の子弟たちとは言え、さすがにハンバーグのインパクトは強かったらしく、夢中になって食べていたよ。


 全員が名残惜しそうに下膳を済ませた後、


「よし、これからミーティングを行うぞ」





◇ ◇ ◇ ◇


 本当は現代日本に倣ってランチミーティングとしゃれこもうとも思っていたのだが、ヴィクシム君たちがあまりにもハンバーグに夢中になっているのでそれどころではなかった。



「みーてぃんぐ? とはなんですか?」


 そこで、取り巻き4人組の中の一人、最初に理論的な疑問をぶつけてきた頭脳担当の子が質問をぶつけてきた。


 この子の名前はマーシュ君というらしい。


 この子の父親は、この街の事務長であるらしく、貴族ではないため家名はない。


 はたから見ても頭脳派とわかるような理知的な顔立ちをしているだけあって事務長の息子だったか。この異世界にまだメガネがないのが残念だ。絶対メガネが似合うのに。


「みーてぃんぐというのはだな。まずはミートというのは肉のことだ。さっき食べたハンバーグも肉から出来ている。つまりは、肉の美味さを語り合う会のことだ」


「「「「「‥‥‥ハンバーグは美味かったです」」」」」



「すまん、それは冗談だ」


「「「「「‥‥‥」」」」」



「コホン。ミーティングというのはだな、特定のテーマについて互いの意見を言い合ったりして意思疎通を図り、物事への理解の共通化を図るという作業のことだ。つまり、今回の場合は先ほどまでの『家庭訪問』に関する君たちの感想を聞きながら、なぜオレが君たちに家庭訪問をさせたのかという意図を説明してその意義を見出して理解してほしいという事だな」


「「「「「‥‥‥」」」」」



 おっとまずい、難解な長文になってしまったようだな。



「コホン。まあ、難しいことは置いておいてだ。さっき君たちには街の中の家を訪問していろいろ聞いてきてもらったわけだが、まずは各々それに対する感想を聞かせてくれ。」





「はい。まずは訪ねた時に応対してもらった時に、とても訝し気な表情をされるのが 心に堪えました。自分が何か悪者のように勘違いされていたらいやだなあって。」


「ですね。ナカムラさんから言われた通り『冒険者ギルドから来ました』って言ったんですけど『うちは冒険者ギルドとは関係ないよ』って言われてなにも言えなくなっちゃいました」


「うん、俺も似たような感じだった。思わず『俺は街長の息子だぞ!』って言いたくなっちゃったぜ」


「自分の時なんて、居留守使われて、どうすればいいかわからなくなりましたよ」


「ボクの時は、穏やかに対応してくれていたんですけれど、この冒険者の格好で家の人のことを聞いたら困った顔をされました。いい人だから教えてくれたんですけど‥‥‥」



 ふむふむ、どうやら皆さん、オレの思惑通り苦労してくれたようだな!






ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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