第27話 異世界版『福祉マップ』

 さて、オレはこれからこの街の将来を背負って立つ有望な元クソガキどもに、社会の厳しさというものを教えるという仕事をしなくてはならない。


 まあ、どうやらオレがこの身分のお高いクソガキどもにマジ説教してしまった罰でもあるんだけどな。



 それにしても、どうしようか。


 社会の厳しさを教えるったって、幅広すぎてどうすればいいのかさっぱりわからんのだよ。


 でも、幸いなことにここは冒険者ギルドだ。


 人が嫌う仕事で、かつ報酬の安い、いわゆる焦げ付いた依頼でもこなしていけば、世の中のせちがらさを否が応でも学んでくれるだろう。


 そう考えて窓口に向かったのだが。



「ドブさらいですか? それか公衆便所の清掃? あ、その依頼ならすでにほかの新人パーティーが受注してますね。え? キツくて安い依頼? そうですね。最近ではそういう依頼は新人研修を受けた新人たちが我先と受注していきますから、焦げ付き依頼というものは無いですね。あ、レッドドラゴンの鱗10枚を集める依頼なら焦げ付いていますけど?」 


 新人受付嬢のミリアムさん(15歳、女性)からはこのようなお答えが返ってきた。


 なん‥‥‥だと?



 『汚れ仕事』が皆受注されている‥‥‥?


 たしかに、新人冒険者講習の中では、『人に感謝をされる仕事を重ねていけば信頼が生まれ、その信頼は後々自分たちを助けることになる』っていう講義も行うけれど、ここの新人たち、素直すぎるだろ!


 普通は、新人さんならそんな汚れ仕事なんかよりも、かっこよさげな討伐とか、地道にコツコツな採取とかやるんじゃないんですか?


 民度が高すぎる新人冒険者というのも考えものだな。




 まあそれはそれとして、今のこの状況をどう乗り切ろうか。


 レッドドラゴンに特攻するのは論外だし。




 よし。


 社会の厳しさという壮大な教育内容はひとまず置いといて。


 この元ボンボンたちは将来この街の中枢を担う少年たちだとすれば。


 教育から、教育に変更だ!

 




◇ ◇ ◇ ◇


「ナカムラさん、お断りされました」


「僕もです。冒険者ギルドに用はないって言われちゃいました」


「自分なんか居留守使われました。確実に家の中に誰かいる気配はあるんですけど」



 うんうん。


 皆、調に苦労しているようだな!



 今、ヴィクシム君たちにやってもらっているのは何かというと、『家庭訪問』だ。


 このロレリアムの街の各家を訪問してもらい、その家族構成、勤め先、いざという時に頼りになる親類や友人を教えてもらうという内容だ。


 もちろん、街の全戸を訪問するなど無理な話であるので、冒険者ギルド、騎士詰所、街長の官庁からそれぞれ徒歩30分圏内の範囲に区切ってはいる。


 で、何のための家庭訪問かと言えば。


 異世界版『福祉マップ』の作成のためだ!








 『福祉マップ』とは。


 日本において、地震や大雨による洪水などの大規模広域災害が発生した際に、独力では避難の難しい障害者や要介護高齢者等の要援護者が住む家や施設等を事前に把握してマッピングし、有事の際に迅速な救助活動を行えるようにするための備えであり手法であり技術のことである。


 もしこういった情報がなければ、それこそ災害が発生してから浸水や倒壊した家屋を一軒一軒回ってしらみつぶしに捜索しなければならず、当然それには時間がかかるし全てを同時に行うマンパワーもないために救助が間に合わず失われる命が多くなることは容易に想像がつく。


 逆にこういった情報があれば、自衛隊等の組織だった救助隊が優先的に向かう先の指標になり得るし、さらにはそのマップを基にしての各町内会や自治会での自助救助組織の立ち上げや、日ごろ行われる各地域での避難訓練もより効果的に行うことが出来るのである。



 オレの目論見は、この『福祉マップ』の異世界版ロレリアムの街Vrを作る事。


 異世界だって、地震はどうかわからないが、大雨や洪水はあるだろう。国同士の戦争ももちろん、それに、異世界ならではの災害、魔物のスタンピードというものもあり得るのだ。


 居を構え生活するその土地が脅かされるその危険性は、現代日本と比べてとても高いと言わざるを得ない。


 電気やガス水道といったライフラインや高層建築物がないことは、現代日本と比べてどのように避難や復旧に影響するかはわからないが、独力で避難することが難しい要援護者に救助の手をいち早く述べることが必要であることは世界が異なっても変わらぬ真理である。


 で、このマップを作るのにあたり、将来この街の安全や管理を担うであろう若者たちにその重要性と作成の困難さ、そして実際の住民の生活様式や状況を把握、理解してくれればとの思惑で、その作成作業を彼らに任せてみたわけだ。


 思うところもあり、ヴィクシム君たちにはまだ目的を告げずにとりあえず家庭訪問に回ってもらっている。


 さて、ヴィクシム君たちはこのことを通じて、何を感じ、何を思うのだろうか?






ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る