第26話 親ってすごい

 説教が効きすぎたかな。


 取り巻きの中の頭脳派の奴だけじゃなく、他の3人や生意気な街長のボンボンまで何やら顔を青くして打ちひしがれてやがる。


 こんな生意気なガキたちにしてはあっさり反省したなと不思議に思っていたが、後からわかったのだが、どうやらこの時オレには『威圧Lv2』『説得Lv3』が生えていたらしい。


 だが、その時はそのことを知らなかったから、『この様子を見ている限り、どうやら反省しているようだな。』なんて考えちゃったんだな。


 しょうがない。こいつらはまだガキなんだと。


 これまでの流れも、講習会の一部という事にして機会を与えようじゃないかと。



「まあ、反省したようだし今回は勘弁してやる。初心者講習も予定通り行う。ただし、これから行う講習は、なにものでもない、おまえら自身の命を守るためのものであることを理解しろ。では、座学を始める。冒険者への依頼には通常依頼と常設依頼、ほかに指名依頼があって――」



 この日は、そのままカリキュラムの座学と午後の戦闘訓練(オレがてき役)を終え、街長の息子のヴィクシム君とその取り巻き4人組は丁寧に頭を下げて帰っていった。


 説教一つでここまで態度が変わるとはオレも驚きである。


 講習会受講者にお昼に振舞われる無償のランチを孤児院の子供達と一緒に食べたことでも何か感化されたのかもしれないな。






 そして、次の日――



「昨日はうちの愚息が大変な失礼をしたそうで、本当に申し訳ありません!」


 あれ? 保護者同伴?



 朝にギルドの事務室に顔を出すと、なんと、ヴィクシム君の父親である街長のヴィリアム・ロレリアム準男爵様がギルド長に頭を下げているではないか。


 しかも、その場にいるのはヴィリアム様だけではなく、取り巻き4人組の親と思わしき大人たちも一緒になって頭を下げている。


「将来、国王様や領主様の威光のもとでこの街の運営にかかわる家の者として、冒険者ギルドに失礼をはたらくなどもってのほか。仕事にかまけて息子への教育が行き届いていなかったようで不徳の至りです。もし可能であれば、こいつらに冒険者のことだけでなく、社会の厳しさをも叩き込んでやってはいただけないでしょうか!」


 ん? 冒険者のこと以外の社会の厳しさ?


「街長さんよ、頭を上げてくれ。まあ、きのうはあれだ。たしかにお宅らのお子さんたちの態度も良くはなかったが、こちらのナカムラも少し言い過ぎた。だから、『初心者講習』が終わったあとも、ギルドの依頼を通じたりしていろんな社会経験を積ませるという教育依頼ということで承りますぜ。担当はこのナカムラにやらせますので」


 ギルマス?


 あなた、準男爵様にそんな口きけるほど偉かったんすか?!


 そして、しれッとオレを担当に指名しましたね?


 シュラークさーん! 今日の担当はあなたですよーー!




◇ ◇ ◇ ◇


「‥‥‥ナカムラよ。お前からは生意気なクソガキだと聞いていたんだが、とても素直だったぞ?」


「あははははは、ちょいとお灸が効きすぎたようで?」


 その日の夕食。


 ギルドの食堂兼酒場でシュラークさんとエールを飲みながら夕食を摂っている。



「おきゅう? なんだそれは?」


「えーと、薬草みたいなものを体に乗せて火をつけるやつですね」



「‥‥‥貴族のお坊ちゃんを火攻めにしたのか?」


「いや、これはもののたとえであってですね‥‥‥まあ、言い換えると、ちょいとお説教しちゃったわけですよ。」

 


 いやいや、火攻めなんて。さすがにそこまではしませんて。



「シュラークよ、このナカムラは結構やばいやつらしい。何かが琴線に触れると貴族だろうが何だろうが関係なく理攻めにしやがるんだ。」



 そこに現れるギルマスさん。いや、オレの評価間違ってますよー。


 すると、ギルマスはオレの頭をげんこつで叩きながら、


「まったく、この街の街長さんがいい人だから良かったものの、他のバカ貴族だったら今頃不敬罪でおめえの首は物理的に飛んでいたかもしれねえんだぞ!」


 はい、説教くらいましたー。痛いんですけど。



「ということでだ。あのボンボン共の世話をお前に任せるというのはお前に対する罰でもある。お前が理攻めにした責任を持って、あのガキどもに社会の厳しさをしっかりと教えてやれ」


 そうか、ヴィクシム君たちに社会の厳しさを教える担当にさせられたのは罰だったのか。


 でもなー。


 オレ、このについてあまり知らないんだけれどいいのかな?


 さて、前途洋々な若者たちにどんな指導をしましょうかね。




◇ ◇ ◇ ◇


「「「「「おはようございます! よろしくお願い致します!」」」」」


 翌日、街長の息子ヴィクシム君ほか4名が元気いっぱいに現れる。


 おまえら、本当にあの態度の悪いボンボンと同一人物か?



 まあ、ヴィクシム君だけじゃなく他の4名も親にこっぴどく叱られたようだからな。

 この4人も、この街の騎士やら役人やらの子供であり、やはり成人後は親と同じように将来の街長と目されるヴィクシム君の元で働く未来がほぼ確定なのだとか。


 ん? といういことは?


 この講習の内容次第では、この街の将来にけっこうな影響を与えてしまうんじゃないのだろうか?!







ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る