第24話 クソガキボンボン

 今日は『初心者講習』の座学の日。


 パーティー『プロミスコクーン』の初回講習から3週間ほどが過ぎ、この講習会は順調に回数を重ねて行った。


 これまでの受講者は、過去1年以内に登録しておりすでに冒険者として活動していた者たちであり、したがってそれなりに冒険者としての素養も、そして先輩や年長者に対する適切な態度というものもある程度理解していた。


 事実、元Dランクのシュラークさんを馬鹿にするような者はこれまで存在せず、むしろ逆にシュラークさんへの『師匠』呼びが定着しつつあるという現状であった。


 だが、今日の相手は勝手が違う。


 なんというか、言葉を飾らずいえば本物の『クソガキ』だ。







 領都にある『中等教育学院』。


 そこは、13歳から15歳までの、初等教育を終えた者が学ぶ学校である。


 地元の各街での初等教育を終えた成績優秀な平民や下層階級の住民が編入することもあるが、それはほんの一握りの真に優秀な、上澄みの者のみ。


 大体は、下級貴族や裕福な平民の子供達が初等科からエスカレーター式に就学する。


 言い換えればちょっと金持ちな田舎のボンボンたちだ。



 つまりは、さらに位の高い、高位貴族や大商人の子弟などいわゆる『上級国民』に属するような、初等科から王都の王立学院に入学する人種からすればとるに足りない田舎者にしか過ぎないのだが、それでも田舎では大きな顔をしているのだ。

 


 で、今回の講習会の受講者は、その領都の中等教育学園の1年生たちである。






 13歳を迎えた彼ら彼女らは、各種基礎学力のほかに、生存能力を高めるための戦闘訓練や将来希望する職種の専門的な内容も学校で学ぶ。


 もちろん、12歳までの初等教育でも総論的に浅く広くの教育は受けてはいるのだが、各種ギルドに登録できる年齢となった彼ら彼女らは、より専門性を身に着けるべく各種ギルドに登録してその知識や経験を学んでいくこともカリキュラムに組み込まれているのだ。


 日本でいうところの専門課程と似たようなところがあり、例えば商人を目指す者は商人ギルドに。魔道具職人を目指す者は魔道具ギルドといった感じで、中等部の生徒はほぼ全員、何かしらのギルドに加入して学ぶこととなるのだ。


 で、今日講習を受けに来たのは、そんな『戦闘課』に属する男性5人の5人組。当然、年齢は皆13歳だ。

 


 なぜ、そいつら5人は領都テヒメラスの冒険者ギルドではなく、領都よりも人口の少ないここロレリアムの街にわざわざ来たのだろう?


 その謎は、最初の自己紹介で解けることになった。



「あー、俺はヴィクシム・ロレリアムだ。名前でわかんだろ? この街長の息子だ。まあ、宜しく頼むぜ」


 机に脚を上げ、両手を頭の上に組みながらの自己紹介。


 うん、態度悪いねキミ。



 どうやら、この5人組はヴィクシム君をリーダーとした、その取り巻き4人組という関係性らしい。


 この街の長は、ヴィリアム・ロレリアム準男爵。

 

 下級貴族である街長の息子は中等教育を卒業後、将来親の後を継ぐべくおそらくこの街の副街長的な立場となり、その取り巻き立ちも街の騎士なりになる未来が約束されているのだろう。



 で、ヴィクシム君も態度が悪いが、その取り巻き4人もこれまた態度がよろしくない。


 薄ら笑いを浮かべて腕組みしていたり、人を見下すような空気を醸し出していたりと、日本で見た何かの学園ものに出てくる不良か? とツッコミを入れたくなるほどだ。



 今日の座学の担当講師はオレ。


 教室――というか、ギルドの会議室(小)の中は、その5人とオレと合わせて6人いる。

 

 つまりは、こいつらの舐めた態度はオレに対してのものだという事が丸わかりだ。




 だが、オレは日本で42歳のオッサン。つまり大人なのだ。


 いちいちこんなガキどもの態度が悪いからと言って目くじら立てるほど小さな人間ではないのだ。


 だが、


「はい、お前ら失格。ギルド登録の申請を却下します。とっとと帰れクソガキども」


 はい、大人げないですね。


 むっちゃムカついたので追い返します。




 だってだって。


 ここは日本じゃないんだもん。


 日本でソーシャルワーカーやってた時には言えなかったセリフを言ったっていいじゃないか!



 日本にいた時。


「困ってます」「助けてください」とか言って相談しに来るくせして、その内容が思い通りにいかないと「おれが困っているのはお前らのせいだ」とか暴言を吐いてくる輩とか。


「あの人認知症だからそちらで対応してね」などと他人事のように言い放ってくる役所の担当者だとか。 


 理不尽さに塗れ、見下され、それでいて反論も出来ずに。


 なのに、相談してくる相手の心に寄り添わなくてはならないという究極の感情労働。


 心を壊す職員も少なくなかった。



 だが、いまここは日本じゃない!


 だから、いくら貴族の息子とはいえ、異世界まで来てこんなクソガキどもに頭を下げてなるものか!



 だから、もっと言ってやる!


「聞こえなかったのか? 親のチカラを自分のチカラと勘違いしているクソガキども。お前らに冒険者は務まらん。とっとと帰れ。邪魔だ。」







ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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