第22話 トマト

「‥‥‥なにやら、神に対しての疑いをお持ちではないですか?」


「いえ、そんなことは。神は偉大なり!」


 あれ? これってイスラム教系の神を称える言葉だっけか?


 神、というよりも宗教に対する不審を見とがめられないよう、必死でごまかそうとしたがこれで合っていただろうか?



「‥‥‥神のご加護のあらんことを」


 どうやら大丈夫だったようである。



 ふうと一息ついて周りを見渡すと、礼拝堂の一画に懺悔室なのだろう、木製の電話ボックスみたいな小さな個室があり、その反対側にはパーティションのような衝立で区切られた区画があった。


 どうやらそこは教会に併設されている治療院のようで、中の様子は良くはわからないが人の気配があり、今まさに治療が行われているようで、神への祈りのような言葉が聞こえてくる。


 ナカムラは『治療魔法Lv1』を覚えた!


 おおう、治療魔法をありがとう!




 思いがけずもまたまた有用なスキルを手に入れてしまったオレは、孤児院の方に案内される。



 ◇ ◇ ◇ ◇


「こちらがホールになります。ここで朝のお祈りや、食事を摂っています。そして、こちらが子供たちのお部屋になっていて――」


 孤児院の中を案内される。


 予想していた事ではあるが、十分な広さとは言い難い。


 聞いた話によると、ここの孤児院には1歳の赤子から11歳までの子供達、今現在は28人が暮らしているそうだ。


 ホール兼食堂も、全員が一斉に着席するには広さが足りず、生活する部屋も当然ながら大部屋だ。


 まあ、思うところはあれどこういった施設や設備に対しては何ら口をはさめる筋合いはないし、そんな財力も権力もない。


「こちらが畑、そして花壇になります。子供たちがお世話をしていますね」


 

 案内された畑には、雑穀に分類される大麦やライ麦、エンドウ豆やそら豆、それにキャベツや玉ねぎなどの野菜類が植えられている。あれはビーツというのかな? 日本ではなじみのないものも見受けられる。


 なぜ種類がわかるのかって?


 シュラークさんのレクチャーを受けた時に得たスキル、『有用植物探知Lv1』によるものだ。


 有用な植物に関しては『鑑定』の真似事が出来るようなのだ。


 なんてことを考えていたら『鑑定Lv1』が生えてしまった。



 うーむ、『器用貧乏』の仕事がすさまじい。


 やっぱりこれって転生チートなのだろうか?




 そんなことを考えながら花壇を見ると、


 そこには、中世では食品としてみなされていなかったジャガイモの花が。


 そして、美しい実が観賞用となっているが植えられていた。




 おおう! トマト発見!


 これでポテトにつける『トマトケチャップ』が作れるぞ!


 そして、お子様ランチのチキンライスも作れるぜ!




「タチャーナさん、お願いがあるのですが?」


「はい?」



「そこの、に植えられているものを使って食事を用意してもよろしいでしょうか?」


「花壇‥‥‥ですか? 畑ではなく?」




「はい。ああ、畑の物も少し使いますが、メインは花壇にあるジャガイモとトマトを使います。」


「え‥‥‥? 食べられるのですか? 伝え聞いた話ではそれらは食用ではないと聞いていましたが?」



「大丈夫です。体に害は有りません。証拠に、まずはわたしが食べてみますから」



◇ ◇ ◇ ◇


『プロミスコクーン』のスラフ君たちや、孤児院年長者のアリツェちゃんに手伝ってもらいながら『ジャガイモ』と『トマト』を収穫する。


 子供たちはもちろん、スラフ君たちも不思議そうな顔をしながら収穫を手伝ってくれる。

 スラフ君たちは昨日のポテトフライを食べていないからな。これが食べられるのかどうかわからないのだろう。

 アリツェちゃんはたしか食べたはずだが、調理前の姿を見てもピンと来ていないようだ。


 そして、孤児院の厨房を借りてジャガイモの仕込みに入ると、「あ! 昨日食べた『ぽてとふらい』だー! とってもおいしいんだよ!」と、カシュパ君。ふふふ、ようやく気付いたな!


 トマトをつぶして鍋で煮込み、細かく刻んだ玉ねぎとニンニクを混ぜる。


 仕込みや調理には、オレの覚えた『料理Lv3』がいい仕事をしてくれとてもスムーズに工程が進む。


 さすがに孤児院の厨房で揚げ物をするほどの油を使うわけにはいかないので、『フライ』ではなく焼く感じになるがご容赦願おう。


 焼きあがったジャガイモを皿に盛り、出来上がった『トマトケチャップ』を小皿に入れて、使いやすいように数か所にばらけて配置する。


 あ、1歳児の赤ちゃんもいるから、他にマッシュポテトも用意したよ。



 毒ではないかとの懸念を消すために、まずはオレが一口ずつ口に入れる。


 カシュパ君なんかはすでに手を伸ばしそうなのだが、シスターの手前我慢しているみたいだ。うん、よだれを拭きなさい。



「「「「神への感謝を」」」」



 神へのお祈りが終わり、子供たちがポテトを手に取り、ケチャップをディップして口に運ぶ。



「「「「おいし~い!!!」」」」



 よっしゃ! 胃袋ゲットだぜ!









ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る