第21話 チャリティー

『プロミスコクーン』のみんなの案内で教会に着いたオレは、孤児院のシスターであるタチャーナさんにご挨拶をした。


「と、いうわけで。孤児院の子供たちにお昼の時間にお食事を提供させていただければと思いまして。」


「‥‥‥ありがたいことです。ですが、理由をお伺いしても?」



「はい。子供たちの健やかな成長のために。そして、この街の将来のためへの先行投資であると考えて頂ければ。」


「先行投資‥‥‥ですか。こう言った言い方をお許しください。冒険者ギルドは、この子たちを冒険者に引き入れたいのですか? 気を悪くしないでいただきたいのですが、正直、冒険者という職業は危険です。本音を言えばすでに冒険者として活動しているスラフたちにも、そのような危険な職業には就いてほしくありませんでした。それに、その、冒険者の方の中には素行の良くない方もいると聞いています。子供たちに悪い影響が出ないか心配なのです。」



 そうか、もっともな心配だ。


 どうやら、タチャーナさんは子供たちのことを真剣に考えてくれるシスターさんのようだ。

 だが、ちょいと頭が固い。聖職者ってみんなこんなもんなのかな?


 

「いえ、必ずしも冒険者になってほしいという事ではありません。たとえば、住民からの様々な依頼があり、それを解決することによって街の人々の暮らしが守られ、向上していく。そんな世の中の一端を見て学んでくれたらいいなとは考えていますが。あと、確かに冒険者の中には粗暴な方もいるのは事実です。ですが、子供たちに危害や悪影響を与えることには絶対にさせません。これは、ギルドマスターの言葉であり、ギルド職員全員の総意でもあります。」


「それは‥‥‥確かに子供たちのためになることだとは思います。ですが‥‥‥単刀直入にお伺いいたします。無償で食事を振舞っていただけるという対価に何をお求めですか? 教会に、子供たちに何を期待されていますか? 冒険者ギルドにとってのメリットは何ですか?」


 うーむ、どうやらいまいち信用ならないといったところか。


 この異世界。当然ながらボランティアという言葉は存在しないらしい。


 貴族や一部の者を除けば、毎日あくせく働いて生活のための糧を得る毎日。凶作や領主の意向などの原因で、いつ飢えて命を失ってしまうかもわからない世情なのだ。


 そんな中で、自身の財や労働力を無償で他者に提供するという考え方は理解されないのだろう。


 だが、現代の地球でも、キリスト教系の宗教的な色合いの強い国には「チャリティー」という文化があった。


 これは、ある意味ボランティアと似た概念ではあるが、ボランティアは純粋な無償奉仕の精神が強いのに対し、チャリティーでは『神への貢献』という意味合いが強い。

 要は、『神の覚えをよくするために善行をはたらく』といった感じだろうか。

 そこには利己的な思考も介在しているため、純粋な奉仕とは違ってこの異世界でも理解しやすいのではないだろうか。


 


「そうですね。子供達への食事の提供は、孤児院への『寄付』であるとお考え下さい。それ以上でも以下でもありません。冒険者ギルドのメリットとして挙げるならば、『神への貢献』であり、教会との良好な関係性を得たいという感じですかね。

神の覚えが良くなれば、神の恩恵によって、命を落としたり怪我をする冒険者が減るかもしれませんし、怪我をしても教会の治療師様たちのお助けをより得られるようになるやもしれませんからね。」


 これでどうだ。


 『無償の奉仕』という概念がわかりづらいというのなら、こちらの具体的なメリットを提示する。

 あえて世俗的な内容にすることで、より理解は得やすくなるのではないだろうか?



「わかりました。神へ、そして教会、孤児院への寄付を感謝いたします。神のご加護があらんことを」


 うむ、ちょろい。


 ナカムラは聖職者のあしらい方を覚えた!



「‥‥‥今、なにか神への冒涜があったような気がしたのですが?」


「キノセイデス。ところで、せっかくなので、もしご迷惑でなければ教会や孤児院の中を見させていただきたいのですが」



 あぶねえ。


 この異世界の人たちって、読心術でも持ってるのかな?


 とっさに話題を変えることでどうにか神と敵対することを避けられたようだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇


「こちらが、教会の礼拝堂になります。ご紹介いたします。当教会の神父、司教の位を持つフランチシェク・スノペクです。」


「タチャーナから聞きました。この度は、孤児院の子供達への食事のご寄付をいただけるとのこと、感謝いたします。神のご加護があらんことを」

 

「神の御心のままに」



 神父様か。


 正直、現代日本から来たオレは宗教というものにうさん臭さしか感じない。


 なので、孤児院は仕方がないにしても、極力、教会とかそういった人たちとはかかわりを持ちたくないと思っていた。


 なので、神父様ともあまり関わりたくはないのだが。



「‥‥‥なにやら、神に対しての疑いをお持ちではないですか?」


 神父よ、お前も読心術持ちか!







ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します! 

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