第20話 『プロミスコクーン』への指名依頼
孤児院の子供たちにポテトフライを振舞ったその翌日。
「ナカムラ。お客さんよ。隣の客はよく柿食う客なのよ」
ビェラさんが今日も斜め上に絶好調だ。
早口言葉なんて、絶対そんな言葉教えた記憶はないんだが?
そんなビェラさんを華麗にスルーしてカウンターの向こうに回る。
もはや、ビェラさんの暴走はギルドの受付嬢や事務員のみならず、カウンターに並んでいる冒険者たちにまでスルー推奨とされているので特に問題はない。
で、カウンターから外に出ると、そこには見知った面々が。
「あ、ナカムラさん! 昨日はうちのガキたちにいっぱい食わせてくれたようで、本当にありがとうございました!」
そう挨拶するのは、新人講習の初の受講者である『プロミスコクーン』の面々であり、代表してお礼を言ってきたのはパーティーリーダーのスラフ君だ。
「うちのアリツェから聞きました。なんでも、マトゥシェクの話を聞いて腹をすかせた年少者たちがこちらに来てしまったそうで。そして、それをたしなめようと出てきたアリツェまでもご馳走になったみたいで‥‥‥ほんとありがとうございました。マトゥシェクにも、アリツェにもきつく言い聞かせておきましたので‥‥‥」
スラフ君はそう言いながら、横にいるマトゥシェク君の頭を軽くこづく。
まあ、確かにマトシェク君が不用意にここでの食事の話をしなければ、子供たちの空腹に拍車をかけなくてもよかったのにという話でもある。
話の中に出てきたアリツェちゃんとは、多分昨日の子供たちの中で食事前にお祈りをしましょうと言った一番年長の子供だな。
そうか、彼女は小さい子供たちを引き留めるためについてきてたのか。
それでも、おいしそうなにおいに負けて一緒になって食べてしまったと。
まあいいじゃないか。子供なんだもん。むしろ食べて行ってくれてよかったぜ!
「ああ、そのことだがな、食事代を奢ってくれたのはギルマスだから、あとで顔を合わせたらお礼を言っといてくれ。まあ、オレからも伝えておくが。」
「えっ! ごちそうしてくれたのはギルドマスターだったんですか! それはまた、なんとも申し訳ないというか‥‥‥」
「いや、その辺は大丈夫だ。それよりも、さっきの話しぶりだと、昨日ここに来なかった子供達もいたんじゃないのか? その子たちにも食べさせてあげたいんだが?」
「そんな! たしかに昨日手伝い当番だった奴らや仕事に出ていた奴らはここには来ませんでしたけど、これ以上ご迷惑をお掛けする訳には‥‥‥」
「いや、迷惑なんかじゃねえぞ!」
「あ! ギルドマスターさん!」
ギルマスの登場だ。
「ナカムラ! 説明してやれ!」
「はい。スラフ君。ギルマスが言う様に、本当に迷惑なんかじゃないんだ。むしろ、今日からはお昼の時間だけだけど、昨日みたいにみんなに食事をご馳走するから、みんなに声をかけてきてくれないか?」
「「「「「えっ!?」」」」」
オレは、ギルドの食堂で今日から子供たちに無償でお昼ご飯を提供する事を伝える。孤児院の子供だけでなく、街の、初等教育の学校に通っていない他の子供達にもぜひ声をかけてもらうようお願いした。
「あっ、そうか。こんな話をする以上、孤児院のシスターさんとかにも経緯を説明しておいたほうがいいのかな。」
「そうだな。ナカムラよ。お前が今から行って説明してこい。」
「はい、わかりました。あ、じゃあスラフ君たちにシスターさんを紹介してもらってもいいかな? ついでに、街の子供たちに無料食堂の件を宣伝するのが今日の指名依頼ってことでどうだろう? 報酬はお昼ごはん食べ放題という事で。ギルマス、いいですよね?」
「「「「「そんなおいしい依頼、いいんですか?」」」」」
「はっはっは! パーティー『プロミスコクーン』にこの俺、ギルドマスターアーモスからの指名依頼だ! 孤児院のシスターさんへの挨拶と、子供達へのギルド食堂への招待の件、宜しく頼むぜ! 報酬は昼食のほかに、夕食もつけてやる!」
「「「「「はい!!」」」」」
こんなやり取りののち、オレはスラフ君たちと一緒に孤児院のある教会へと足を向けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ! 昨日のお兄ちゃんだ!」
教会につくと、昨日のギルドの扉から中をのぞいていた男の子が出迎えてくれた。
「こら、カシュパ。まずはご挨拶だろう? それと、昨日のお礼もだ。」
「あ、うん! おはようございましゅ! 昨日はありがとーございました!」
スラフ君に促されてカシュパ君が挨拶してくれる。うん、いい子だ。
すると、奥の方から10代後半から20代前半くらいの若くて顔立ちの整った女性が顔を出す。
シスター服というのだろうか? に身を包み、頭髪はフードのようなもので隠されているため実際の年齢がわかりにくい感じだ。
「ラムォデ教教会ロレリアム孤児院にようこそ。わたくしは、この孤児院を任されておりますタチャーナと申します。あなたさまを歓迎いたしますわ。」
「あ、自分は冒険者ギルド事務員のナカムラと申します。宜しくお願い致します。」
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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