第19話 異世界『こども食堂』

『こども食堂』とは。


 日本において、今の時代にあっても、社会構造の変化によって『貧困層』と呼ばれる階層も徐々に増えてきた。


 そういった層に属する家庭の子供の中には、毎日の3食の食事も満足に取れない子供達も増えてきている。


 学校の給食でしかまともに食べられない子供達。


 そんな子供達の家庭は、その給食費でさえ満足に支払うこともできないことも多い。




 そんな子供たちに、お腹いっぱい食べて笑顔になってもらおうという試みが『こども食堂』である。


 地域のなかで、ボランティアの人たちが、そんな子供たちに無償で食事と、食事を食べる場所を提供してくれるのだ。





 『こども食堂』の役割は、単に食事を提供するだけにとどまらない。


 経済的に困窮はしていなくとも、核家族で両親が共働きという家庭はとても多い。


 そんな家庭の子供たちは、夕食を家で一人で摂ることも多い。


 いわゆる、『孤食』の児童である。


 食事時のコミュニケーションを図る相手が全くいないという状況の子供達。


 その状態が長く続けば、心身の健全な成長にとって好ましいわけがない。

 



 そういった子供達にも門戸を開き、『みんなで』『楽しく』『お腹いっぱいに』食事を楽しむ場としても、『こども食堂』は機能する。



 さらに、『こども食堂』に訪れるのは何も子供達ばかりではない。


 ボランティアの皆様をはじめ、地域の一人暮らしの高齢者の方や、一人では食事の準備が難しい障害を持った方、はては外国から移り住んできている外国人の方などもその対象に含まれる。


 こうして様々な属性の人たちと交流を持つことで、家庭と学校だけでは決して学ぶことのできない、『社会』や『地域』というものについての学びの場ともなる。


 もちろん、子供たちの学校の宿題を地域の大人がみてくれるなどといったことはもはや当たり前のように行われているのだ。





 そんな『こども食堂』を。


 日本よりもはるかに生活水準の低い、この異世界の子供たちに提供したい。


 孤児院の子供たちが笑顔でポテトフライをほおばる姿を見て、オレはそんなことを思いついてしまったのだ。




◇ ◇ ◇ ◇



「と、いうことです。」


「いや、説明を端折るんじゃない」



「えーと、つまりはギルドの食堂で子供たちに無料で食事を提供するというのは、決してギルド側が一方的に損をする話じゃないんですよ」


「詳しく。」



「大きな視点で見れば、この街の将来に対する先行投資とも言えます。子供たちは次の世代を担う宝です。その宝を、地域社会全体で健全に育てようということに他なりません。」


「一気にスケールが大きくなったな。なるほど、わからんではない。だが、そのことを周囲は理解してくれるのか?」




「そうですね。確かにその懸念はあります。なので、いきなり『理解』を得ようとするのではなくて、『ギルドの中に子供たちが当たり前に食事を食べにくる』といった状況に『慣れて』もらいながら、理解を促して行ければいいかと。」


「ふむ。だが、どうしてもトラブルは起きるだろう? とくに、気性の荒い冒険者共が子供たちに絡んでいく姿が目に見えるようだ。」



「そんなときはギルマスがその冒険者たちをぶっ飛ばしてください。たしかに、冒険者たちが絡んでいく姿は目に見えるようですが、おそらく最初のうちだけでしょう。弱者である子供たちを威嚇するような輩は周囲からも白眼視されます。いくら馬鹿でも子供たちに絡めば自分の居場所がなくなることをだんだん理解してくるものかと。」


「なるほどな。」



「それに、食堂を解放する時間を設定しましょう。冒険者たちが依頼を受ける朝や、報告で込み合う夕方は除外して昼の時間だけにします。これだけでもだいぶトラブルは避けられると思います。」


「それで、食事をさせる子供たちの方に制限は設けないのか? 孤児院の子だけならいいが、さすがに町中の子供たちが殺到すればさばききれねえぞ?」




「そのときは並んでもらいましょう。予定量の食材が切れたらその日はそこでおしまいにします。子供達にも社会のルールやマナーを学んで守ってもらういいきっかけになればいいかと。それに、明らかに自分よりもお腹を空かせていそうな子供がいれば順番を譲ってくれるといったやさしい気持ちを育てて欲しいとも思いますしね。あ、年齢制限は設けましょう。ギルド登録できる12歳以上はちゃんと金を払って食えと。」


「それはいいな。あとは、それだけか? おめえのことだから、他にもなんか考えているんじゃねえか?」



「はい、近所のお仕事を引退したご高齢の方も対象に加えましょう。そして、食事以外の時間は地域の大人の人から文字や計算を子供たちに教えてもらえれば、いいシナジー効果も生まれます。あとは、集まった子供たちにギルドの裏と訓練場の脇の土地で『ジャガイモ』のお世話もしてもらえればこちらも助かりますしね。」


「こちらも、っていうかお前が助かるんだろうに」



「ん? ギルマスはポテトフライ嫌いなんですか?」


「‥‥‥いや、あれはいいものだ。すまん。」




 そんなこんなで、単なるオレの思い付きであった『こども食堂』は、無事ギルマスの理解を得られ、動き出すことになったのである。







ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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