第18話 子供たちの笑顔

 ところで、この異世界のジャガイモだが。


 結構広い範囲で、観賞用の花として知られていた。


 といっても、摘み取って花屋で売られるようなカテゴリではなく、普通にそこらへんに大量に生えている、ちょっときれいだなと思わせるくらいの存在だ。


 冒険者ギルドの裏手とか、訓練場の外れとかにも生えていたので、もしかしたらと思って掘り返してみたらジャガイモでした。

 

 過去に食べようとした人がいたのかいなかったのかはわからないが、とりあえず、『食べ物』としての認識はされていなかったようである。


 まあ、だからというか、毒のある植物としての認識もあまり浸透はしていなかったのが救いだった。もし毒草のカテゴリに入っていたら、みんなに食わせるときに猛反発をくらっていただろう。



 ということで、日本食食いたいの一心で掘り起こしたジャガイモを食堂に持ち込み、安くてうまい主食兼おかず兼酒のつまみが異世界に爆誕したわけだ。


 ちなみに、まだ植物油は稀少なので揚げるのは動物性油を使っているが、それでも最初は「油もったいねえ」とロウシュさんに文句を言われたな。

 ポテトフライを食わせてみたらそれ以降文句は言わなくなったが。


 動物油で揚げたイモはどうなんだとも思ったが、そこは異世界不思議スキルがいい仕事をしている。


 『料理』のスキルを持っているロウシュさんにかかればさっくりあっさりの味わいに仕上がり、懸念されたベタベタ感やくどさはさほど感じなかった。


 味付けは残念ながら塩のみだ。


 トマトケチャップやマスタードにはいまだお目にかかってはいない。どうやら過去の『迷い人』は食の分野ではああまり活躍してくれなかったようだ。




 いろいろと考え事をしてしまったが、ふと視線を子供たちのテーブルに戻すと、皆満足そうな顔をして油で汚れた指を布で拭いていた。


 どうやら塩味のポテトフライで満足してくれたようである。


 え? 代金?


 こんないたいけな子供達からもらえるわけがないじゃないか。


 当然、ギルマスのおごりだな!



「さーてみんな! おいしい食事を作ってくれたおじさん達に挨拶しようか!」


 子供たちが一斉に立ち上がり、調理場にいるロウシュさんに顔を向ける。



「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


 ロウシュさんとラドミラさんのご夫妻はとてもいい笑顔でウンウンとうなずいている。



「よーし、みんなちゃんと挨拶できてえらいぞー! じゃあ、次はこのお食事の代金を払ってくれるおじさんにもごあいさつに――イタイイタイ、ギルマス、耳引っ張らないでー」


「はあ、なにやら食堂が騒がしくなったと思ったらやっぱりお前か。で、俺はこの子供らの食事代を奢ればいいいいんだな?」



「さすがギルマス! さあ、みんな、この怖い顔をしたおじちゃんにもありがとうしようねー」


「「「「「あ、ありがとうございました!」」」」」」



 子供たちはギルマスの強面を少し怖がりながらもきちんとお礼を言えていた。うん、いい子たちだ。



「またいつでもおいでねー。あ、朝と夕方は怖い人がたくさんいるから来るならお昼だよー!」


 子供たちは笑顔で手を振りながら帰っていった。


 


◇ ◇ ◇ ◇


 子供達を見送ってから。



「さてギルマス、ご相談があるのですが」


「却下だ」



「ご相談というのはですね――」


「却下だと言っているだろうが! 人の話を聞きやがれ!」



「チッ。では相談ではなく質問にします。」


「てめえ今舌打ちしやがったな?」



「ギルマスは子供たちのことが嫌いですか?」


「だから人の話を聞けと‥‥‥まあ、嫌いではない」



「ということは、ギルマスは子供たちはお好きなんですね?」


「まあな。見てると心が温かくなる」



「じゃあ、さっきの子供達を見てどう思いました?」


「そりゃあ、おいしそうに食ってくれて見てるこっちもうれしくなってきたが。何が言いてえんだ?」



「明日から、いや、今日からですね。これからは子供たちの食事代をにしましょう!」 

 

「これからって、毎日か?! 毎日タダメシ食わせるっていうのか?」



「はい、毎日です。しかも、お腹いっぱい。」


「おいおい、いくら子供の食う分はたかが知れているったって、たまにだったらいいが、毎日となると厳しいんじゃねえか?」



「大丈夫です。これからギルドの純利益は右肩上がりになるはずです。子供たちの食事代くらい何とかなりますよ」


「いや、利益が出たら他に使うところもあるだろうが‥‥‥。まあいい。ナカムラよ。お前がそういうってことは、何か考えがあるんだろうな?」



「はい! もちろんです!」




 考えと言っても、ついさっき子供たちの笑顔を見て思いついたことなのだが。


 決して裕福とは言えない子供達。


 でも、仲間たちと一緒に、お腹いっぱい食べると、とっても幸せそうな表情になっていた。



 日本から来たからこんなことを思ってしまうのだろうか。


 いや、日本でも、この異世界でも、子供達の幸せはかなえるべきものであるはずだ。


 だから、オレはこの異世界にも作ってみたいと思ったのだ。


『こども食堂』を。







ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


 もし、「面白い」「続きが読みたい」など、ほんの少しでも感じていただきましたら、作者のモチベーションに繋がりますので星やハートでの応援をよろしくお願い致します!

 

 

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