第17話 大盛りポテトフライ
冒険者ギルドの食堂兼酒場のマスターであるロウシュさんと、その妻ラドミラさん。
この二人には子供はいない。
なんでも、この二人も若いころは冒険者だったそうで、ラドミラさんが腹部に大きな怪我を負って引退。
そのとき同じパーティーに居て、付き合っていたロウシュさんもラドミラさんと一緒に冒険者を引退し、このギルドの厨房で働き始めたそうな。
で、そのときラドミラさんが受けた傷は結構深かったらしくお腹に大穴が開いてしまったのだとか。
幸い怪我自体は中級ポーションで治ったものの、子供を産む機能が損なわれてしまったそうだ。
その話を聞いて、「異世界のポーションすげえな」と思ったのと同時に、いくら異世界不思議パワーでも完ぺきではないことに気が付かされたものだ。
で、そんな二人だから、子供にはめっぽう甘い。
先日のマトゥシェク君たち12歳の5人パーティーが来た時にも、注文されてもいないのに次々と料理を作って食べさせていたことが思い出される。
で、今回はそれよりも小さな、天使のような子供達だ。
多少身なりが汚れているとはいえ、ロウシュさんたちにそんなことは関係ない。そもそも普段の客である冒険者たちも薄汚れた格好している奴らが多いからな。
「ナカムラ! さっきの『おこさまらんち』ってなんだ! 料理の名前か! 察するに子供たち向けのメニューなんだな! さっそくレシピを教えやがれ!」
おおう、ロウシュさんが気合入りまくりだ。
「えーっと、直ぐに教えるのは難しいので、とりあえず日替わり定食で」
「『ひがわりていしょく』だと! それも初めて聞いたぞ! ああ、ちくしょう! 覚えることが山積みだぜ! ナカムラの国には一体どれだけの美味い料理があるというんだ!」
あーそっか。そういえば『日替わり定食』もまだ教えていなかったな。
こんなやり取りからもわかるように、この異世界の食事事情はあまり豊かとはいえなかった。
料理と言っても、焼くか煮込むかの2択なのである。
それでも、野菜とか魔物肉とかの食材は結構充実していたので、日本の味が恋しいオレとしては、持ちうる料理のレシピをロウシュさんに教えたのは自然のことであったんだ。うん。
「わかりました。じゃあ、子供達もお腹を空かせてますし、大量に早くできるやつ、えーっと、大皿のポテトフライでおなしゃっす!」
「おおう! あの『ジャガイモ』を油であげるってやつだな! 任しとけ! 仕込みは済んでるぜ!」
そう言うと、ロウシュさんは大きな鍋に豪快に油を注ぎ、細長くカットされたジャガイモを準備する。
手慣れたもので、ラドミラさんも大きなお皿を準備し、子供たちの手が油で汚れることを見越して手拭きになる布を準備していく。
ちなみに、揚げ物や煮込みにそれぞれ適した形状の鍋や、いわゆる地球のフライパンのような調理道具は鍛冶師ギルドに絶賛発注中だ。
今、ロウシュさんが使っているのはもともとあった大きな中華鍋のようなもの。
便利だよね、中華鍋。
異世界でも、機能を重視すると同じ形になるんだと感心したものだ。
「ほーれ、出来たわよ! たっぷりおあがんな!」
ラドミラさんが大皿をテーブルの真ん中に置く。
ホカホカの湯気が立ち上る山盛りポテトフライに、子供たちの目は爛々としながらも釘付けになるという器用な表情を見せている。
その子供たちの表情を見て、ロウシュさんもラドミラさんもうれしそうな顔をしている。
さっそく、子供たちがポテトフライに手を伸ばしそうになるが、そこで子供たちの一番の年長者と思われる女の子が口を開く。
「ちょっと待ってね。先に、いつものようにお祈りを捧げましょう?」
「「「「はーい!」」」」
なるほど、さすがは孤児院の子供達だ。
孤児院は、例にもれずこの街の教会に併設されているから、自然と神へのお祈りなんかも生活の習慣に溶け込んでいるのだろう。
お祈りが済んだ子供たちは、夢中になって熱々のポテトフライをほおばっている。やけどすんなよ? お替りもたくさんあるからケンカもするんじゃないぞ?
そんな子供たちの様子を目を細めて見ていたロウシュさんとラドミラさんだが、いつまでもそうしているわけにもいかなかったようで、
「ラドミラ、この分だと今日の夜の分の『ジャガイモ』が足りなくなりそうだ。仕込みの量を増やしてくれ」
「あいよ! じゃあナカムラ、子供たちのお替りのお皿はあんたが運んでね!」
ロウシュさんはお替りの追加のジャガイモを揚げはじめ、ラドミラさんはジャガイモを細長く切る仕込みに入った。
なんせ豪快な異世界だ。
仕込みと言っても、土の付いたジャガイモをロウシュさんが『水魔法』で洗い、ラドミラさんが『
もちろん、芽や変色した皮は取り除いている。
ラドミラさんは『生活魔法』を使える戦士で、なんと、いかついおっさんのロウシュさんが『魔法使い』だったというから驚きだ。
ちなみに、エールを冷やす『氷魔法』もロウシュさんの魔法だ。
あ、料理や仕込みをじっくり見ていたら『水魔法Lv1』と『生活魔法Lv2』と『料理Lv3』が手に入ってしまったぞ。
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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