第15話 小さな来訪者

 深酒をした翌日、休みなことをいいことに昼まで惰眠を貪っていた俺は、受付嬢チーフのビェラさんに起こされる。


 っていうか、今気が付いたんだが確かオレは部屋に鍵をかけていたはずなのだが?


 ああ、ここは冒険者ギルドの簡易宿舎だもんな。


 ギルド職員が合鍵を持っていても何の不思議もないのか。





 ビェラさん曰く、ギルマスがお呼びなのだとか。


 休みとはいえ、大恩あるギルマスのお呼びとあっては起きない訳に行かないだろう。


 で、起きようとしているのだが。


「ビェラさん? 何やってるんですか?」



 なんと、ビェラさんがオレのベッドに入ってきて、身体を起こしかけたオレごと布団にくるまってくる。


「ちょっとだけよぉ~ん?」



 どんな冗談だ!



 おかしいな。確かにオレは昭和テイスト満載のオヤジギャグマスターであり伝道師でもあるが、ビェラさんにこんなネタを教えた覚えはないのだが?


「むう、笑ってくれないの豚なのね」


「笑えるか!」


 慌ててベッドから跳ね起きるが、突然のクールビューティーさんとのベッドインにオレの心臓はバクバクだ。

 こういう冗談は本当に心臓と股間に悪いからやめて欲しい。


「むう、ナカムラが冷たい」


「ビェラさん、独身で妙齢の女性が男の部屋どころかベッドにまで入ってくるのはいかがなものかと思うのですが?」



「大丈夫。わたしは行き遅れのお局様。オバタリアンの一歩手前よ。」


「イヤイヤ、そんな言葉教えてませんよね」

  

 この国の成人は15歳。


 なので、25歳になるビェラさんは確かにこの世界の結婚適齢期を過ぎてはいる。


 だが、やはり美人さんなのでギルドの冒険者たちからはものすごい人気を博しているのだ。


 だから、引く手あまたなのだがビェラさんは冒険者たちには関心がない様で、言い寄られてもとても上手にあしらっている姿をよく見ている。






「ナカムラの国の言葉は面白い。教わらなくても、いくらでも応用が利く」


「応用ってレベルを超えてますけどね」



 ビェラさんには、日本のオヤジギャグは教えているが、オレが異世界から来たことは教えていないため、設定上はどこかほかの国から来て記憶を失った人ということになっている。


 はずなのだが。


「ナカムラは不思議な存在だ。どこか遠い国の出身というよりも、別の世界から来たような感じだ」


 というような感じで、ビェラさんの直感がすごいのだ。



「えーっと、ギルマスが呼んでいるんですよね? なら、急いでいかないと!」


 オレは逃げるように部屋から出てギルマスの執務室に向かう。






 部屋に一人取り残されるビェラ。


「むう、ナカムラにはどうにかしてわたしを貰って欲しいのだが‥‥‥今日も失敗だな。今度はどんな『おやじぎゃぐ』で攻めるべきか‥‥‥」


 なにやら不穏な言葉を発し、ナカムラの後を追う様に部屋を出ていくのであった。





◇ ◇ ◇ ◇



「おお、休みの所悪ぃな。起こしちまったようだな」


「いえ、大丈夫です。」



「‥‥‥ん? 何かあったか? 妙に息が上がっているが」


「いえ、ナンニモナイデス」



「そうか。ならいいんだが。ところで、お前を呼んだのはだな。表に客が来てるんだ。」


「‥‥‥客? オレにですか?」


 

 おかしいな。オレはこの世界に来てからギルド関係者以外との交流はほとんどないはずなのだが?


「お前にというか、お前がだと思われる客だ」


「????」



「まあ、見ればわかる。正面入り口から外を覗いてみてくれや」



 オレはギルマスに言われた通り、小首をかしげながらも受付カウンターの横を過ぎてギルドの正面入り口に向かう。


 昼時のギルド内は、酒場兼食堂で数人が食事を摂っている以外は、みんな依頼を受けて出払っているのか人気はほとんどない。


 そんなホールを通り抜け、入り口の両開きの扉を開けようとすると――


 ほんの少し開かれた扉の隙間から、とてもかわいいお客さんの姿が見え隠れしていたのであった。




◇ ◇ ◇ ◇



「こんにちは。何か御用かな?」


 ギルド入り口の扉から中をのぞいていたのは、年齢5歳くらいの男の子。



 オレに声をかけられて驚いたのか、少し開けていた扉を閉めて、そこから離れて行ってしまう。


 すかさず扉を開けて外の様子を見ると、そこには年齢が3歳くらいから8歳くらいまでの小さな子供たちが8人ほど固まって、さっきの少年のようにこちらを伺っている。



 おお。こまかくてかわいい集団だ。


 ギルドの扉を開けて出てきたオレを見て、皆一様に驚きと恐れが混じったような表情になってしまった。


 いや、怖がらせようと思ったわけじゃないんだ。


 お願いだからそんな顔はやめてくれ。




 オレはこれ以上怖がらせないようにしゃがみ、小さな子供たちに出来るだけ視線の高さを合わせる。


 そして素晴らしい笑顔を浮かべて子供たちに再度問いかける。


「こんにちは。怖くないから安心してね。なにか御用かな?」


 当社比やさしさ500%のイケメンヴォイスでゆっくりと話しかけたところで、ようやく子供達から反応を得ることが出来た。



「あ、あのね! ‥‥‥ま、マトゥシェクお兄ちゃんをちゃがちに探しに来たの!」





ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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