第13話 乾杯

「‥‥‥ということで、相手の数が自分達より多い時は前衛は間を抜かれないように立ち回る。その時は、遠距離攻撃の手段を持つ後衛の攻撃の射線を特に気にかけろ。」


 ふむふむ、なるほどシュラークさんの指導は分かりやすい。


 シュラークさんはソロで活動することが多かったと聞いていたが、それなりに野良パーティーにも参加していた実績がある。


 臨機応変に隊列や戦い方を理解するという面では、固定のパーティーよりも熟練度が高いということにうなずける。


 だから、指導もとってもためになる。



「‥‥‥よし、集団から1体が突出してきた時の対応だ。魔法使いは実際に弱い魔法を放ってみろ。ああ、実戦の時でも弱い魔法で十分だぞ。むしろ発動速度の速い魔法の方が敵の突出へのけん制と、後ろに控えた魔物どもへの抑えにもなる。じゃあナカムラ、前に出てこい」


 シュラークさんに言われるがまま、陣形を保った『プロミスコクーン』と相対したオレは歩を進める。


 そこに、魔法使いのルジェナちゃんが放つ火魔法(小)がぶち当たる。



「このタイミングで、前衛は敵全体の動きを見て距離を詰めるのか迎え撃つのかの判断をしなくちゃならん。ああ、僧侶や支援魔法使いはこの時点で防御や補助をかけ終えておくことだな。」


 淡々と進む実戦講習。


 そして、淡々と削られるてき役のオレ。


「ぐえーー」




 いや、君たち?

 

 いくら最弱の火魔法(小)といえども、食らう方は結構堪えるんですよ?


 まして、オレは冒険者じゃなくて事務員なんですが!


 君たちの成長はオレという貴重な犠牲のもとに成り立っているのだという事を海よりも深く認識してほしい。


 ちなみに、オレが着せられたフル装備は、魔法防御や物理耐性に優れたフルプレートアーマーで、なんとギルドの備品らしい。


 防具の類は有事に備えて何着か備えを確保しているという事だったが、有事に使うものを訓練でオレに着せるのはどうなのかと問い詰めたい。




 それはそうとして。


 休憩の合間にこっそりとステータスウインドウを表示させてみたのだが。


 ある程度予想はしていたものの、やはり今日も新たに覚えたスキルの数が増えているじゃありませんか。


『指揮Lv2』、『戦術理解Lv2』、『攻撃魔法耐性Lv3』、『物理攻撃耐性Lv2』、『火魔法Lv1』、『攻撃力増加補助魔法Lv1』、『物理防御魔法Lv1』、『身体強化Lv1』。


 えーっと、これまた随分と増えたもんだな。


『指揮』や『戦術理解』はシュラークさんのお話を聞いていたからだろうし、魔法や物理攻撃の『耐性』は実際に攻撃を受けたからだろうな。


 『魔法関連』は発動を見たからだと思うが‥‥‥最後の『身体強化』は何だろう?


 さては、脳筋気味の前衛マトゥシェク君、無意識に身体強化を使っていたな?


 多分本人も自覚できていないのだろう。あとでそれとなく教えてあげなくては。




 そんなこんながありまして、無事、『新人冒険者講習会』の第1回目は全日程を終えたのであった。




◇ ◇ ◇ ◇



 夕食時。


 ここはギルドの酒場兼食堂。



 無事に講習会を終えたという事で、オレはシュラークさんや副ギルマスのダリボルさんらと、反省会という名の乾杯をしていた。

 もちろん、ギルマスも一緒だ。ということは、飲み代はギルマスのおごりだ。そうであるはずだ。オレはそう信じている。




「「「「「乾杯!」」」」」


 互いの労苦を労って乾杯をする。


 え? オレは未成年の身体で転生したんじゃないのかって?


 大丈夫だ。こっちの世界の成人は15歳だ。


 オレの見た目は18歳くらいだという事はギルマスからのお墨付きだ。


 

 酒場兼食堂のマスターが氷魔法で冷やしてくれたエールを一気に飲み干す。


 最初の1杯を冷やすのはサービスだが、2杯目からは『冷やし料』が別途かかる仕組みの様だ。まあ、ギルマスのおごりなので当然お願いする。

 あ、今ので『氷魔法Lv1』を覚えてしまった。今度一人で飲むときにありがたく使わせてもらおう。


「それにしてもシュラークよ。すこし覗かせてもらったが、お前の指導はとてもよかったぞ。腕を失っても立派にできることがあるってことを他の奴らも理解してくれただろうさ!」


 ギルマスがシュラークさんにねぎらいの言葉をかけている。


 うんうん、もっと褒めてあげてくれ!




「‥‥‥いや、これは俺だけのチカラじゃないですよ。ナカムラが若造たちとの間に入ってくれなかったら、俺はろくにしゃべることもできなかったはずです。‥‥‥でも、今回を乗り切って少し自信がつきました。相手にもよるとは思いやすが、一人でもなんとかなりそうです」


 

 よっしゃ!


 オレはシュラークさんのその言葉を聞いて、心の中でガッツポーズを決める。



 そうだ。シュラークさんの自身のなさを克服する手段として、ギルドの職員であるオレがその業務遂行の支援をした行動。


 それは、『ジョブコーチ』という、日本での障害者等の就労支援で使われていた手法だったからだ。





 


ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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