第12話 講習会の座学
オレの『器用貧乏』というスキルは、おそらく日本での前職である『ソーシャルワーカー』だったことに端を発していると思われる。
実際、ギルドでの事務仕事やらシュラークさんからレクチャーを受けただけでいろんなスキルが身に着いてしまった。
福祉の相談職をしている時、「広く浅い」知識や技術には、様々な場面で身を助けてもらったものだ。
オレの日本での職名は「ジェネリックソーシャルワーカー」。
これは、まさに全般的な幅広い相談に対応する相談職の呼び名である。
逆に、介護保険とか障害福祉とか一つの分野に秀でた相談員のことを「スペシフィック」なソーシャルワーカーと呼称していた。
まあ、おそらくはこれからも様々なスキルが低レベルで手に入るのだろう。
その反面、各スキルは極めるほどにはレベルは上がらないことも予想できる。
まあ、悪いことではない。
なんせ、今は冒険者ギルドの事務員なのだ。
剣術も薬草採取も書類作成も、全てが仕事に役に立つ。
これで給金が上がってくれれば儲けものである。
そして、この日はステータスボードの増えたスキルを眺めてほくそえみながら、ほんのちょっと幸せな気分になって眠りに就くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
――翌日。
今日は、昨日実地指導を受けたパーティー、『プロミスコクーン』たちの座学と戦闘訓練の日だ。
『新人冒険者講習制度』の講習は、実地のフィールドワーク1日、ギルド内での座学と訓練で1日の計2日間だ。
本来は座学と戦闘訓練のほうを先に行った方がよいのだが、今回は講師の都合で順番が逆になってしまった。
本日の座学の講師は、副ギルマスのダリボル・コレツさん。
講義の内容は――、まあ、かたっ苦しい内容から入っていった。
冒険者ギルド創設の経緯、なぜに各ギルドは各国の統制下を離れた独立組織扱いとされているのかの説明。そして、冒険者たちの活動がこの国や世界全体の社会にどのような貢献が出来ているかといったことから、初回登録時にも説明される冒険者としての禁則事項や罰則の説明等を少し掘り下げた内容など。
全員12歳の『プロミスコクーン』の面々には少々難しい内容であると思うのだが、「理解できないだろうから説明しない」といったスタンスは取るべきではない。
たとえ理解できなかったとしても、「どこかで聞いたことがある」という聞き手側の経験と、「確実に説明をした」という説明側の責任は重いのである。
案の定、脳筋気味の前衛マトゥシェク君は頭から煙を出しそうな勢いだし、天然キャラと思わしき魔法使いのルジェナちゃんは視線が中空に固定されている。大丈夫かな? 知恵熱とか出さないでね?
リーダーのスラフ君や、知能担当の斥候ツレク君なんかはさすがなもので一生懸命頷きながら副ギルマスの話を聞いている。
そしてもう一人、姉御気質の僧侶スラヴァちゃんはメモ、というか板書にノート取りに余念がない。きっと、あとでパーティーの野営の時とかに復習の学習会でも開くつもりなのだろう。しっかりしている。
そしてもう一人。
え?
人数多くない?
大丈夫だ。
その増えた一人というのはオレだ。
というのも、なぜかプロミスコクーンの5人に混ざってオレまで着席させられて講義をうけている。
確かオレは『立会者』のはずなのだが。解せぬ。
「と、いうことでナカムラよ。私は昨日も講義を行えず日程変更をさせてしまったようにとても多忙だ。次からは、お前が講師役なのだからしっかり内容を覚えておくんだぞ?」
「はい?」
聞いてないぞ。
次からはオレが講師だと?
そんなことは最初に言ってくれ。
すっかり油断していてここまでうわの空で聞いてしまったじゃないか。
スラヴァちゃん、あとでそのノート見せてくれ。
無事に? 午前の座学は終わり、お昼の休憩をはさんで午後からはギルドの訓練場での戦闘訓練だ。
お昼ご飯はギルド併設の酒場兼食堂からの無料提供だ。
「せめて昼飯くらいただにしねえと受講者のモチベーションが上がらねえじゃねえか」という、ギルマスの鶴の一声でこうなった。
これはとってもいいことだと思う。
パンのお替りも可能とのことで、マトゥシェク君なんかは腹いっぱい食べていたな。午後から動けなくなるぞ?
実はこの冒険者ギルド、登録時に実力を見るための手合わせなどは存在しない。
なので、スラフ君たちは実質初めて、この訓練場での立ち回りをすることになる。
教官は昨日に引き続きシュラークさん。
ん? 利き腕を失ったシュラークさんで大丈夫なのかって?
大丈夫だ。
なにも実戦をするわけじゃない。
新人講習での戦闘訓練は、いわゆるチュートリアル。
各役割ごとのパーティーでの立ち回り、陣形の取り方などを仮想敵の藁人形相手にシミュレーションすることがメインである。
はずなのだが。
「えーと、シュラークさん? 何でオレはフル装備でここに立たされているんですかね?」
「‥‥‥お前が
やっぱりですかーー!
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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