第10話 スキルの存在

「へぇ~、薬草って引っこ抜くことしか考えてなかったな~」


 こんなことを言っているのは前衛のマトゥシェク君。


 脳筋なのかな?




「リーダー、だから言ったじゃないか。採取用と解体用のナイフは必要だって!」


 で、軽戦士で斥候役のツレク君。


 ふむ、装備や準備に余念のない慎重タイプだな。




「えー、これって薬草じゃなかったんだー。どうりでー、買い取りカウンターではじかれていたのねー。」


 魔法使いのルジェナちゃん。


 天然っぽい小動物系な女の子だ。





「こんなところに薬草の群生地‥‥‥。そうか、採りきってしまわず数本株を残すことで継続的な採取が可能になるということ‥‥‥。これを知っていると知らないとでは大違いですわね。」


 長身、長髪の僧侶のスラヴァちゃん。


 みんな同い年のパーティーなのに姉御肌なんですね。




 そして。


「すんげえ! これで! これで! おれたちのパーティーの収入がアップするぞー! やった! これでシスターや孤児院のみんなに腹いっぱい食べさせてやれるぞー!」


 熱血真面目君の、リーダーのスラフ君。


 前衛でありながらも初歩の強化魔法が使えるとのことだ。



 うーん、なかなか個性的なメンバーがそろっているな。

 

 齢12歳とは思えないくらい、個性が渋滞中だ。




「‥‥‥おい、次は毒消し草だ。毒消し草は日陰のほうに生えやすい。あの林の奥に行くぞ。ああ、足元の草むらに気をつけろ。スライムが潜んでいることがあるからな」



 うん。シュラークさんもだいぶ饒舌になってきてるな。結構な長文セリフも自然に出てくるようになってきた。


 12歳のパーティー相手にどのような態度で臨めばいいのかわからなかっただけで、いくら口下手だろうが慣れれば何とでもなるものだ。





「‥‥‥毒消し草は葉の茎に薬効がある。より良い茎を見つけるには、葉の端の突起が硬くて鋭いやつを選ぶとよい‥‥‥そうだ、可能なら直接触って確認してみろ。この形状をした毒草はないから安心しろ。」


、質問です。毒消し草も根ごと採取する必要があるのでしょうか?」


 おっと、ツレク君から質問が出てきたぞ。



「‥‥‥おい、ナカムラよ。お前、俺のことをなんて呼べと教えたんだ?」


「えーっと‥‥‥ははははははは。ほら、質問に答えてあげなきゃ?」



「はあ、お前といるとすっかり巻き込まれてばっかりだ。いいか、この毒消し草の場合はさっきも言ったが薬効は葉にあるから、次の収穫のためにも根は残して――」



 うんうん。いい感じだ。



 

 こうして、第1回の『初心者講習会』第1日目のフィールドワークは無事大成功となったのである。




◇ ◇ ◇ ◇



「ふう、今日も有意義な一日だったなー」



 初回の講習会への付き添いを終え、オレのねぐらと化している冒険者ギルドの簡易宿泊所に帰ってきた。


 思えば、この異世界に転移してきてからここの宿泊所にお世話になっておよそ2か月が経過した。


 この狭い部屋は、今ではすっかりオレの専用個室と化していて生活感と個性感が半端ない。まるで日本のアパートの様だ。


 部屋のスペースの半分近くを占めているベッドに横になる。




 有意義だというのは本当だった。


 今日の講習会も、そして前回のシュラークさんと二人でレクチャーを受けた時も。



 と、いうのも。




 


「‥‥‥ステータスオープン」


 隣の部屋に聞こえないようにこっそりと、とある言葉をつぶやいてみる。





「やっぱ、スキル増えているんだよなー。」


 オレにだけ見えるステータス画面。



◇ ◇ ◇ ◇



 この異世界には、『スキル』という概念が存在する。


 ただし、他のみんなはオレのようにステータス画面などは見ることはできないようだ。



 オレがそのことを知ったのは、ギルドで働くようになってから。




 ギルドの受付カウンターで、新人冒険者が登録をしに来た場面に出くわしたときのことだ。



「――それでは、登録料の銅貨30枚をお願いします。はい、確かに。それでは、そこにある測定機に手を触れてください。はい、大丈夫です。〇〇様のレベルは2、スキルは‥‥‥斧術Lv1がありますね。はい、明日の朝にはギルドカードが出来ていますので、この控え証を持ってまた明日以降窓口に来てください。それと引き換えにギルドカードをお渡ししますので」


 といったやり取りが耳に入り、オレは思わずその『測定器』とやらをガン見した。


 そこには、モニターみたいな硝子盤に、異世界の言語で(なぜか読めた)レベルとスキルの表示がなされていた。


 これを見て、この世界にはレベルとスキルの概念があることを知ることが出来たのだ。


 

 そのとき窓口を担当していた新人受付嬢のミリアムさん(15歳、女性)にオレも『測定器』を触ってみてもいいか尋ねたのだが、

 

「冒険者登録をした人なら銅貨50枚、そうでなければ銀貨1枚。ギルド職員は割引きが効きますが、それでも銅貨20枚の手数料が必要になるんですけど‥‥‥。お金、持ってないですよね‥‥‥?」


 と言われて撃沈した。


 

 まあ、後から思えば撃沈して良かったわけなのだが。










ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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