第8話 制度を創ろう!
制度の創立について掲示板に張り出されてから、独身者が多かった冒険者たちが、次々と結婚していくという現象が起きた。
結婚しても、いつ死ぬかわからない。
死なずとも、怪我をすれば冒険者としては終わってしまう。
子供が出来ても、養うことが出来ないかもしれない。
そんな考えがはびこっていた冒険者たち。
だが、新しい制度が出来れば。
命さえ残っていれば、『講師』として収入を得られる生き方が出来る可能性がある。
だったら、愛する人と所帯を持ち、子供を授かってもいいのかもしれない。
これまでは許されないと思っていた生き方を選べるようになる。
そんな、『気づき』が冒険者たちの間に広まっていくのに時間はかからなかった。
ちなみに、結婚した冒険者の中では、高い比率で『娼館からの身請け』による結婚が多かったのも冒険者としての生き方を現しているとも言えるだろう。
まあ、それによって娼館に働き手の不足やら、所帯持ちが増えたことによる客の減少といった現象も生じていたようではあるが。
さて、雑談はこの辺にしておこう。
なんといっても、新しい制度である『新人冒険者講習制度』およびそれに関連する制度を明文化するという仕事が残っているのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、新人登録者は講習を受けることを義務化するという基本方針はそれでいいか? なら、次は講師に払う講師料の財源をどこから確保するかだが――」
副ギルマスのダリボル・コレツさんが議長として会議を取り仕切ってくれている。
彼は40歳になったばかりで、脳筋的なギルマスのアーモス・クライーチェクさんとは対照的な、理知的な人だ。
現役時代はBランクまで上り詰めたそうで、攻撃魔法と補助魔法の使い手、いわゆる魔法使いだ。
通常の魔法使いはと言えば、攻撃魔法に特化する人が多いらしいのだが、ダリボルさんは補助魔法にも長けていたそうで、ダメージディーラー兼バッファーであり王級の宮廷魔法使いにも一目置かれていた存在だったとか。
ギルマスや副ギルマスを見てわかるように、現役時代に高ランクに至った者は、ギルドの管理者的な立場にスカウトされることが多い。
だが、もちろんAランクになったから必ずスカウトされるという事はなく、人柄や実績などにも左右される狭き門である。
そんな彼らも、元冒険者。
命を落としたり、怪我で第一線から退かざるを得なくなった冒険者たちを数多く見て、忸怩たる思いを抱えていたのだろう。
今回の制度の創立について、とても積極的に関わってくれている。
「財源について、受付窓口で冒険者達と直接接する機会の多い受付のチーフであるビェラの意見は?」
「――はい。新人冒険者向けの講習ですので、新規登録の手数料を増額するという案が出ていましたが、歳若き彼らに負担を強いることは酷であり、その負担を嫌ってモグリで活動したり他の都市に移る輩が増えるかもしれません。それでは本末転倒となってしまいますのでその案は却下です」
「ふむ。では、どうする?」
「はい。講習の実施によって、買い取りカウンターに卸される薬草等の各種素材の量はもとより、質の大幅な向上が見込まれます。ですので、買取品の売却益の純利益から財源に回してもギルドの運営に支障は出ないかと思われます。それどころか、講師料を差っ引いても余裕のよっちゃんです。これが試算表になります。」
「‥‥‥よゆうのよっちゃん?」
「あ、すみません。ナカムラの口調が移っちゃいました。」
「‥‥‥そうか。で、今回の発案者であるナカムラの意見は?」
「はい。この場合、余裕のよっちゃんではなく、余裕のよし子さんでも宜しかったかと。」
「なんの話だ?」
「あ、すみません。財源についてはその通りで宜しいかと。あとは、各種素材の急激な流通量や質の増加による市場の混乱を避けるため、各種ギルド、特に薬師ギルドと魔物素材や鉱物を取り扱う鍛冶師ギルドと服飾ギルド、魔道具ギルドには事前の情報提供及び、できれば買い取り価格の安定を図る協定書を新たに締結したいかと。」
「ふむ。それについては
「ならば、公式な文書はギルマスから上に通していただいて、この街の各ギルドにはその旨の連絡文書くらいで大丈夫でしょう。」
新しい制度に関する細かな部分が次々と形になっていく。
「よし、だいたいこんなところだな。ナカムラは会議の結果を文書にまとめて、制度をまとめた書類のたたき台を作ってくれ。ダリボルは講師たちの募集と面接日程の計画を。ビェラは新人登録者への説明マニュアルを作成、受付業務員に周知してくれ。俺はグランドマスターへの手紙を‥‥‥書きたくねえなあ」
ギルマスの指示で動きが加速されていく。
ギルマスって脳筋に見えてこういった決断する能力は高いんだよな。まあ、手紙とかの事務仕事は苦手なようだけど。
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この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!
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