第7話 制度の創設(ソーシャルアクション)

 物思いにふけっていたオレの死角から襲ってきたスライム。


 シュラークさんはその襲撃を難なく小盾で防いでくれた。


 まあ、そのあとにオレが一撃でやっつけた件は置いておこう。


 大事なことは、



「シュラークさん! ありがとうございました! シュラークさんが守ってくれなかったら、オレ多分怪我くらいはしてましたよ!」


「‥‥‥いや、スライムから守ったくらいで感謝されてもだな」



「いや、シュラークさんは難なく守ってくれましたけど、これってすごいことですよ! とくに、ろくに街の外に出ることのないオレとか、冒険者を始めたばっかりのルーキーにとってはとってもまねできないことです!」

 

「‥‥‥そうか、一般の村人とか商人からすれば、こんな弱っちいスライムでも警戒の対象だからな」



「そうですよ! シュラークさんはすごいんです! 薬草の取り方を教えながら、魔物からも守ってくれたんですよ! そうだ! やっぱりギルドに依頼を出しましょう! 冒険者ルーキーとかを守りながらこの街近辺の動き方のレクチャーをするんです! ルーキーはろくに報酬を払えないかもしれませんが、こうやって採取方法とかを学べばその後の稼ぎはかなり上向きになるはずです! 後払い可能とかにすれば十分生計を稼ぐことはできますよ!」


「‥‥‥そうはいってもだな。さっきも言ったがルーキー共は元Dランクなんかの言うことは聞かねえだろう」



「いや、そんな心配は無用です。スライムからオレを守ってくれたさっきの動き、あんな熟練した動きが出来る先達を馬鹿にするような奴はいません。それに、もしそんな失礼なやつがいたら、冒険者の資質に乏しいとギルドで判断して評価に含めればいいんです。そうだ! Gランクに登録したものに対しては、この『講習会』を必須にしましょう! そうすれば、シュラークさんにはギルドからの直接報酬という形で賃金が入りますし、冒険者の質の向上にも役立ちます! よーし、さっそく戻ってギルマスに――」


「待て待て。一人で興奮するんじゃない。お前が一人で張り切ったところで、ギルマスの許可がもらえるかはわかんねえだろうが。それに――」



「それに?」


「そんな御大層な話になってくるなら、『講習会』の講師役は俺一人じゃ到底間に合わん。他の引退した奴らにも声をかける必要があるだろう」



「――! と、いうことは?」


「ああ、お前さん――ナカムラの言うことに乗っからせてもらうぜ。ただし、条件もあるがな」



「条件とは?」


「何度も言っているが、俺は口下手なんだ。だから、その『講習会』の最初にはナカムラも同行してペーペーたちと俺との橋渡しをしろ。そうすれば、2回目からは俺もなんとかできるかもしれん。」



「はい! お安い御用です! もちろん協力させてもらいますよ! じゃあ、さっそくギルドに戻ってギルマスに話を――」


「だから落ち着けって。まだお前の依頼は終わってねえぞ。薬草の分布と採取方法のほかに、魔物の生息分布だろ? まだ毒消し草も採取してないし、ゴブリンやウルフなんかにもお目にかかっていねえんだ。ほれ、その薬草取ったら森の方に向かうぞ」


「あっ、そうでしたね! じゃあ、宜しくお願いします!」



 ◇ ◇ ◇ ◇


 シュラークさんとの街の外での薬草採取と魔物分布の確認。


 この一日は、オレにとってとても有意義な一日となった。



 そして、有意義だったのはオレだけじゃなくて。




 あの日、ギルドに戻ったオレとシュラークさんはギルマスの執務室に突撃した。


 そして、二人で話し合った内容、すなわち『新人冒険者講習制度』のあらましについて熱く説明し、その場で了承をもらったのだ。


 細かな制度設計については後日のこととなるが、即日おおまかな骨子が掲示板に張り出され、新たな制度の新設に冒険者たちは色めき立った。




 現役の冒険者たちはもちろん、シュラークさんたちのような、何か事情があって冒険者を引退した人たち、そしてこれから冒険者として生きていこうとするルーキーたち。

 新人冒険者たちの生還率の低さに心を悩ますギルド職員たち。


 そして、何より冒険者ギルド全体の、冒険者の質の向上、それによる依頼の達成率の向上とそれに伴う信頼度の上昇。

 それに、引退した冒険者への福利厚生という側面。


 怪我をして冒険者を引退しても、収入を得る術がある。


 この点は大きかった。




 その日暮らしの刹那的な生き方を余儀なくされていた冒険者としての生き方。


 だが、頑張り次第でそれなりのランクに就くことが出来れば、引退後もその道で生きていける。


 そんな変化をもたらしたロレリアムの街の冒険者ギルドの新制度は、冒険者たちの生活を劇的に変えた。


 先の人生の見通しが立てられること。


 その恩恵は大きかった。


 なんと、独身者が多かった冒険者たちに、次々と結婚をする者たちが増えて行ったのだ。

 






ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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