第6話 不意打ち

「こんな感じでしょうか!」


 オレはシュラークさんに教わりながら薬草を採取している。



「‥‥‥うむ、まあまあってところだが。根にいらん傷をつけすぎだな。太い根はスパッっと一回で切る様にするといい」


「はい、師匠」



「‥‥‥師匠ってなんだ」


「物事を教えてくれる先生って意味です」



「いや、それは知っているんだが‥‥‥まあいいや。どうせ今日限りだ」


「そのことなんですけど」



「‥‥‥なんだ?」


「師匠の教えは、さすがベテラン冒険者らしく実地での経験を基にしていてとても分かりやすいです。この知識は財産だと思うのです。」



「‥‥‥」


「なので、この財産を新人冒険者に教える依頼書を出しませんか? これは、カネを取れる、いや、カネをとるべきノウハウですよ!」



「‥‥‥そうか、そんなことが出来るのか‥‥‥。考えたこともなかったな」


「そうです! 師匠ならできるんです! ぜひ、明日からやりましょう!」



 よっしゃ! シュラークさんに、自分の価値に気が付いてもらうことが出来た!


 たとえ、利き腕を失ったって、これまでの冒険者としての経験は失われない。


 このまま、ギルマスに話を繋いで、初心者冒険者の教官みたいなポジションに‥‥‥!



「‥‥‥ありがたい話だとは思うが、俺には無理そうだ」



 なんで?!




「それは‥‥‥あれだろ? オムツのとれたばかりのようなペーペーのガキどもにこうやっていろいろと教えてやれってことだろう?」


「ええ、まあその通りですが」



「だったら無理だ。」


「その理由をお伺いしても?」



「‥‥‥わかるだろ? 見た通り、俺は口下手で不器用だ。それに、所詮はDランクどまりの男なんだ。世の中を知らねえガキどもは絶対に俺をなめてかかってくる。そんなガキどもに、教会の神父様のように根気よく丁寧に物事を教えてやるなんて芸当は出来る気がしねえ」



 ふんふん、だんだんわかってきたぞ。


 利き腕を無くした事ばかりに気を取られていたがそれだけではなく、自身がDランクまでしかなれなかったことにもコンプレックスのようなものがある感じだな。


 この世界に来て冒険者ギルドで働かせてもらってからわかるようになったのだが、よほどの都市部でない限り、そのギルドの1軍級はCランクだ。


 世の中にはSランクやAランクといった化け物のような存在もいるにはいるのだがその数はほんの一握り。


 野球でいえば、大リーグの3冠王みたいな超ヒーローがSランク、各球団のエースピッチャーや4番バッターがAランクで、レギュラーメンバーがBランクといったところだろうか。

 Cランクは日本のプロ野球のレギュラーと思えば、Dランクでも2軍か実業団のレギュラーくらいはあるので結構なものだとは思うのだが、本人の受け取り方はまた違ってしまうんだろうな。


 たしかに、どんな世界でも子供達やルーキーはヒーローのことしか目に入らないものだからな。駆け出しの冒険者になめられて馬鹿にされることも十分あり得るだろう。


 ちなみに冒険者ランクは最初はGランクから始まり、たいていの冒険者はFランクに上がった後、Eランクに上がるあたりでつまづくものが現れ、Dランクともなれば結構な実力者なのだ。

 

 

 うーむ。


 駆け出しのGランクの若者たちが、指導者の元Dランクのベテランをなめてかかるという懸念。


 指導をしてくれる先達に対してとても失礼なことだ。


 それは、駆け出しの若者にとっても、ベテランにとってもよろしくないことである。


 んー、なんとかならないか。



 指導を受ける立場の者が、教えてくれる立場の方に敬意を持って接する為には‥‥‥



「おい! あぶねえ!」


「!」 



 考え事をしていてぼーっとしていたその時。


 意識と視覚の死角から、なにやら動くものが飛び出してきた!



  グァイン!


 その、飛び出してきたものとオレの間にシュラークさんが身体を滑り込ませ、左腕に持った小盾ではじき返した!


 

「スライムだ。たいして強くはねえが、頭にまとわりつかれると引きはがすのに苦労するぜ。」


 シュラークさんは落ち着き払った口調でそう言うと、地面に転がっているスライムに小盾を向けて構え直す。



「おい、ナカムラ。俺は攻撃する手段がねえ。おめえの腰に下げている剣でこいつをやっつけろ」


 そう言われて、オレは自分の腰回りを確認する。


 そうだ。街の外に出るにあたり、ギルド窓口担当で先輩にあたる受付嬢のチーフ、ビェラさん(女性)から「外に行くなら剣くらい持っていけの鯉」と言われギルドの備品の剣を持たせてくれていたのをすっかり忘れていた。

 薬草採取でしゃがむときに邪魔だなとは思っていたが、その邪魔なものが剣であるという認識を忘れていたって感じだ。


 ともかく、オレは不器用な所作でどうにか腰の剣を引き抜き、両手で構えて目の前のスライムに叩きつけた。


 ぐちゃっ


 スライムが強くはないという事が証明されるかのように、オレが生涯で初めて振り下ろした剣の一撃は見事スライムの生命活動を停止させたようだ。


 

 


  





ーーーーーーーーーー


 この度は、『異世界に飛ばされたソーシャルワーカーは冒険者ギルドの事務員として働いています。』をお読みいただき誠にありがとうございます!


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