1160 相性の良し悪し

 飯綱ちゃんに、ヤクザの有用性を語られた倉津君。

それが目から鱗だったのかして、更に話を続ける2人なのだが……その内容は?


***


「なぁなぁ、処でオッサン」

「あのなぁチビ。前にも言ったけどなぁ。オッサン言うなつってんだろ。俺にはなぁ。罷り也にも倉津真琴って立派な名前が有るんだよ。それに同い年だつっただろうに」

「そうか。ほんだらウチの事もチビ言うな。チビ言う名前ちゃうから」

「おぉ、そう言えば。オマエの苗字は知ってけど、名前は知らねぇな。オマエなんて名前なんだ?」


確か、初めて奈緒さん家でコイツと逢った日。

崇秀が、コイツに向かって『神社』みたいな名前を、なんか言ってた様な気がするんだがなぁ。


まぁあの時は昏睡明けな上に、眞子のややこしい話をしてたから、あんまコイツの記憶がないんだよな。


敢えて言えば『蟹カマ』が、どうとか、こうとか言ってた様な気がするぐらいだからな。



「ウチの名前か?ウチは名前は飯綱神楽や。チビ以外やったら、好きな様に呼び」

「おぉ……そうだ、そうだ。神楽だ神楽。なんか神社みたいな名前だったのだけは憶えてたんだけどな。ハッキリ憶えてなかったから、呼び様がなかったんだよな」

「しばいたろか。誰が神社や」

「いや、オマエ」

「このヤクザのオッサン腹立つわぁ。『神様でも羨む様な、楽しい人生を送れる様に』って長野のおジィが付けてくれた名前やのに」


『神が羨む様な楽しい人生なぁ』

なんともコイツらしい、快楽主義な名前を命名をされたものだな。


名を体を洗わすとは、よく言ったもんだ。



「ほぉ、そうなんか。オマエの名前には、ちゃんと由来とかがあるんだな」

「まぁね」

「でもよぉ。それはそうと、さっき俺をオッサンと呼ぶのは止せと言った筈だが」

「辞めてるやん。オッサンの前に、ちゃんと『ヤクザ』って付けて『ヤクザのオッサン』って言うたやん。これやったら、ただのオッサンだけちゃうやろ」


おかしな屁理屈捏ねやがって……


ってか。

そっちの方が余計に嫌じゃ、このクソチビ!!



「あっそ。じゃあ俺も、オマエの事を『おチビ』って呼ぶからな。オマエの理屈に従って『チビ』の前に『お』を付けてるから、これで文句はねぇよな」

「嫌や、チビちゃうもん。……それになぁオッサン。アンタ、あまりにも大人げないで。女の子の嫌がる様な事をすな。デリカシーの欠片ちゅうもんがあらへんのか」

「……どっちがだよ」

「オッサンの方に決まってるやん。大体、ウチの何所がデリカシーないんよ。訳解らんわ」

「全部だよ全部!!」


コイツだけは、本当に厚かましい女郎だな。


どう考えても、オマエの方がデリカシーの欠片もねぇじゃねぇかよ。



「解らん。言うてる意味が解らん」

「コイツだけは……あぁ、じゃあもぉオッサンで良いよ。但し、前にヤクザは付けるなよ」

「ホンマ?オッサン、中々物解りえぇやんか。……っで、ウチの事は、なんて呼ぶん?」

「神楽ちゃん。オマエの事は、これから一生涯『~ちゃん付け』で呼び続けてやる」

「うわっ、キモッ!!マジでそれだけは辞めてぇや。全身からサブ疣出たわ」

「じゃあ、二択だ。『神楽ちゃん』と『チビ太』どっちが良いよ?」

「なに、その嫌な二択?」

「究極の二択だ。ドッチかしかダメだからな」

「腹立つオッサンやわぁ。……あぁ、もぉえぇわ。人前で『~ちゃん付け』で呼ばれる位やったら『チビ太』でえぇわ」


おぉ、なんか知らんが妥協しよったな。


まぁけど、街中や、人前で。

俺みたいな厳つい奴に『~ちゃん付け』で呼ばれたら周りがドン引くだろうし、確かにキモイだろうからな。


その選択は正しいと思うぞ。


なにより、俺もそんな呼び方はしたくない。



「なんだよそれ?これじゃあ、最初と、殆ど変わんねぇじゃんかよぉ」

「ほんまやね。アホ臭ッ」


……ってか、渾名ぐらいで、こんなにツマラネェ諍いをしたのは初めてだな。


マジでアホ臭いな。



「だな。……処でチビ太よぉ」

「うん?なんやオッサン?」


マジで『チビ太』で良いんだな。



「いや、あのよぉ。オマエに、ワザワザこんな事を聞くのもなんなんだけどな。真菜とは上手くやっていけそうか?」

「真菜?あぁ、誰の事かと思ったらアンタの妹の事かぁ」

「そぉそぉ……っで、どうなんよ?」

「さぁ、どうやろね。うちは、あんまり堅苦しい子は好きやないから、相性は、あんま良ぅないんとちゃうか」

「そうかぁ。相性が良くねぇんだ」

「うん。全然良ぉないねぇ。あの子なぁ。堅苦しい上に、頭も固いやろ。そう言う子に、ウチ、あんまり興味持たれへんねん」


……頭が固いのが嫌いかぁ。


確かにコイツは、柔軟性な思考の持ち主だから。

相手の頭が固いと話が拗れる可能性が多くなるだろうし、そんな奴と一緒に居ても、中々楽しくは過ごせない。


そう考えると、相性が悪いと言うのは、強ち間違いでもないかぁ。


けどなぁ……コイツ、滅茶苦茶頭が良いから、出来れば真菜とも友達に成ってやって欲しいんだよな。


どうしたもんか?



「そっか。全体的に堅い感じの真菜じゃあ、あまり好きなタイプには成らねぇか」

「まぁね。まぁそれ以前に、アンタの妹って依存性が高そうやねん。普段、毅然としてる分、甘えられる相手にはトコトン甘えそうな気がしてなぁ。ウチ、そう言うの一番苦手なタイプやから。正直は、あんまり関わりたくはないわ」


ホント、良く見てやがるなぁ。

よくもまぁ、あの短期間で、これだけ相手の深層心理を見抜けたもんだな。


ホント、おっかねぇチビだ。



「オマエって、ホント正直だな。少しは言葉をオブラートに包もうとか思わねぇのか?」

「思わんね。思う必要もない。ウチは、絶対的に人に求められてる人間やから、正直に物を言うて、えぇ人種やねん。それが気に入らんねんやったら、ウチと付き合いを持たんかったらえぇだけの話やん。ウチはそんなもん、なにも怖ないで。……たった1人、付き合いが消える位、気にも留めへんわ」

「それが、チビ太に有利になる人間でもか?」

「オッサン、ホンマにアホやなぁ。ウチが有利になる人間って言うのは、ウチ以上に他人に求められてる人間やんか。それやったらウチがへりくだるのが、モノの道理ちゅうもんとちゃうかいな?」

「あぁ、確かに、そうだな。じゃあ真菜は……」

「それには、全然該当してないね。事実だけを言えば、話にもならん」


思った以上に、厳しい回答だな。

完全にコイツは、メリットと、リスクだけで、全てを換算してやがる。


こう言うタイプは、女には珍しいタイプなんだが……居るもんなんだな。


なら此処からは、真菜と付き合うメリットを前面に押し出してしてみるか。



「そうか。けどよぉ、オマエさっき『ヤクザの有用性』ってのを語ったよな。それを含めてもメリットはねぇか?」

「う~~~ん。そやねぇ。無くも無いんやろうけど。別に、あの子に拘る必要性はないんちゃうか?なんせウチにはオッサンが居るからね。ウチにとっては、あの子より、アンタの方が魅力的やし」


そうなんか?


まぁ、そうやって過大評価してくれるのは有り難いんだがな。

確認の為に言って置くが、俺は相当なダメ人間だぞ。



「いや、そんなこたぁねぇだろ。真菜の方が礼儀を弁えてるし、俺みたいに、年がら年中馬鹿な問題を起さねぇ。明らかにアイツの方が良いじゃねぇかよ」

「全然。オッサンの方が100倍以上えぇわ」

「なんでだよ?俺、かなりダメ人間だぞ」

「うん。メッチャダメ人間やね。そやけど、オッサンはなぁ。多少なりとも世間ちゅうもんを知ってるし、アホはアホでも、アホ也にモノに対する柔軟性が高いやんか。付き合いする上で、そこの『有る』『無し』は大きいで」


世間に、柔軟性つってもなぁ。

ヤーさんの家に生まれてりゃ、嫌でも、ある程度は身に付いちまうだろうに。


これは、その程度の話なんだけどな。



「まぁ、そりゃあなぁ。多少そう言う面も有るかも知らねぇけどよぉ。なんで、そんなに固い奴を嫌がるんだ?」

「簡単やん。……基本的にお堅い奴はな。チャレンジ精神が乏しいねん。なにをするにも守りは堅いけど、攻撃力はない。そんな奴が、ウチの性格と合うと思うか?合う訳ないやろ。だから、あんまり関わりたないねん」

「そっか、そんなに合わねぇか……」


いや、まぁな。

別に本人が嫌がるなら、無理強いをする気なんて更々ねぇんだけどな。


折角だからよぉ……



「うん。悪いけど合わんわ。……そやけど、なんでオッサンは、なんでそんなにまでしてウチに拘るんや?あの子の友達を作りたいんやったら、別に他の子でもえぇんちゃうん?」

「いや、まぁな。そう言っちまえば、そうなんだけどよぉ。なんつぅか、その年で、チビ太みてぇな頭の良い奴って、そんなに居ねぇじゃん。だからよぉ、真菜の糧にもなるかなぁって思ってよ」

「オッサン……それは過保護過ぎやわ。ちょっとキモイで」

「まぁ、キモイなぁ。俺も、自分でもそう思うわ」

「ほんだら、尚更なんでそう思うんよ?」


なんでって言われてもなぁ。


まぁ……他にも理由は有るんだけどな。


つぅか、それを包み隠さず言った方が、話が早そうだな。



「いやなぁ。ブッチャケて言えばな。オマエさっきさぁ。俺の悩みを、罷り也にも解決してくれたじゃん。……っで、アイツもよぉ、多分、同じ悩みを持ってると思うんだよな。だからな、助けに成る人間が居てやって欲しいんだよ。……そのせいで、アイツ友達が異常に少ないからよぉ」

「あぁ、そう言う事な。……それやったら尚更、妹の事は放って置き。そうやって人と話す機会が少ないんは、大体にして自分のせいやろ。それが解らんよぉやったら、まずは話にもならんし。解ってるんやったら、そう言うのは、自分で考えて乗り越えるもんや。ウチは、出来る限り1人で、そうやって来たで」


コイツって……本当に、なにからなにまで強い奴だよな。


良い意味でも、悪い意味でも完成されてる人間だ。



「そっか。けどよぉチビ太。今な、オマエ『出来る限り』って言ったよな。それって、乗り越えられなかった事も有るって事か?」


此処まで完成された人間であっても、人に助けられた事があるもんなんかな?


いや寧ろ、助けられたからこそ、こう言う思考に成ったのかの?


どっちなんだろうな?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


相性の良し悪しと言うのは、誰にでも存在します。

他人から「あの人は良い人だよ」っと言われても、自分にとっては「あまり良い人には見えない」なんて事も良くある話。


ただ現実的な話をすれば、本当は「深く付き合ってみないと解らない」って言うのが答えでして。

「あんまり好きなタイプじゃないなぁ」なんて思ってても、付き合ってる内に相手の良さと言うものが見えてくる可能性もありますからね。


寧ろ「嫌いやわぁ」っと思ってた相手程、仲が良くなってしまう可能性も意外と高かったりしますしね(笑)


まぁまぁその辺を踏まえた上で、今回飯綱ちゃんは『どこか突き放す様な発言』を繰り返しているのですが。

一体、彼女は、何故、この様な言動を続けるのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


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