1147 そんな些細な事位で山中を辞めさせてたまるか!!

 些細な切っ掛けから『山中君の無名脱退問題』に発展してしまったのだが。

理由がどうあれ、このまま山中君を脱退させるのは忍びない倉津君は、何とか説得しようと試みる。


***


「オイ、山中、頼むからよぉ。向こうに行って、少しでも良いから嶋田さん達と話し合ってくれよ」

「話し合うやと?もう今更アイツ等と話し合う話題なんか、なんもないわ。大体にして、この状況でなにを話せ言うねん?」

「いや、そうかも知れねぇけどよぉ。流石に、この場でのこの雰囲気はマズイだろ。だから取り敢えずで良いからよぉ。まずはアッチにだけでも移動してくれよ」

「さよか。オマエまで、そんな風に俺を邪魔者扱いするんやな」

「いや、だから、そうじゃなくて……」

「……解ったわ。ほんだら帰らして貰うわ。帰ったらえぇねんやろがぁ!!」


オイ!!俺は、んな事は一言も言ってねぇじゃんかよ!!

まだ話が終わる処か、始まってもいねぇんだから、勝手に自己完結して帰ろうとしてんじゃねぇよ。



「オイ、待てよ、山中!!キッチリと話も付けずに、このまま、この場から逃げ帰るつもりかよ!!この卑怯もん!!」

「あぁ、卑怯者で結構や。こんなケッタ糞悪い連中とバンドを続けるぐらいやったら、卑怯者で結構や。コイツ等と話し合う事なんぞ、俺にはなんもないんじゃ」

「だから待てって!!嶋田さんも、椿さんも、康弘もケッタ糞悪くなんかねぇだろ。理由はどうあれ、あれは、オマエの成長を待ってくれてたんじゃねぇのかよ?そうだろ?そうじゃねぇのかのよ?」


そりゃあな。

俺だって、嶋田さんのやり方は、あまり褒められたやり方じゃなかったとは思うぞ。


今の山中の様に「馬鹿にされてる」って感覚に成っても、なにもおかしくはない様なやり方だったからな。


けど、少し視点を変えてみろよ。

それって考え方によっちゃあ、それでもオマエを待ってくれてたのは事実なんじゃねぇのか?


なのに、そんなメンバーの期待する気持ちにも応えずに、期待されてるオマエだけが拗ねて、この場から早々に逃げてどうすんだよ?


それは明らかに違うだろうに。



「なんやねん。その上から見下ろした様な物の見方?まさにケッタ糞悪いわ。それにのぉ、アイツ等も俺に言いたい事が有るんやったら、最初から面と向かってハッキリそう言うたらえぇやんけな。俺が邪魔なんやったら『邪魔や』ってハッキリ言うたらどないやねんな?それを、なにを嫌味ったらしい事を晒してくれとんねん。人嘗めすぎじゃ」

「だからよぉ。そうじゃなくってよぉ。オマエじゃなきゃダメだからこそ、オマエの成長を待ってくれたんじゃねぇのかよ?……まぁ、そりゃあな。オマエが怒る気持ちも解るし、嶋田さんのやり方自体も、俺だって決して褒められたやり方じゃねぇとは思うけどよ。それでも待ってくれてた事実だけは、なにも変わんねぇだろうに」


事実、嶋田さんは、そう言う人だ。

バンド内で悶着があっても、あの人は、自分から仲間を見捨てる様な真似はしない。


俺も昔、此処を見誤って、嶋田さんと揉めた事が有っただけに、絶対に間違いじゃない筈だ。


だから冷静に対処しろ山中。



「フン。冗談やないで。待って貰わんで結構や。そんな屈辱受けてまで、この糞バンドを続けたいとは思わんわ。……やから俺は、明日、早々に引退表明して、この件にケリを付けたる。それで、こんな糞バンドとはオサラバじゃ」

「オイ……山中」

「それとのぉ。オドレ、今さっき『俺の怒る気持ちが解る』みたいな事ぬかしとったけどのぉ。……オドレに、俺のなにが解る言うんじゃ?」

「はぁ?」

「俺はのぉ。オマエ等みたいな天才とは違って凡人なんじゃ。そんな凡人の気持ちなんかを天才に解る訳ないやんけ。知った風な口利くな」


……馬鹿かオマエ?

俺が天才だとか、オマエが凡人だとか、そんなもん知ったこっちゃねぇよ。


これは、そんな些細な問題じゃねぇだろうに。



「アホかオマエは?大体にして俺の何所が天才なんだよ?マジで馬鹿じゃねぇの?」

「はぁ?」

「大体なぁ。もし仮に俺が天才なんだったらなぁ。1人だけバンドをクビに成ったり。人に笑われる様な人生ばっかり歩むかよ。オマエの方こそボケた事を抜かしてんじゃねぇぞ」


天才とか凡事とか言う前に思い出してみろよ。


俺が、あの湘南海岸で『たった1人だけクビになった』時、どれだけ1人で耐え難い屈辱を味わったと思ってるんだ?

その上で、その直後に、諸事情あって1年間昏睡だぞ。

こんなもん、誰がどう見たって、とんだお笑い種にしかならないじゃねぇかよ。


それなのに、俺が天才だと?

どこをどうやって見たら、こんな奴が天才に見えるんんだよ?


オマエさんは、俺の事を『人に笑われる天才』とでも言いたいのか?


しかも、その昏睡期間に、他の奴等には、どれだけ差を開けられたと思ってんだよ?

崇秀や、奈緒さんや、眞子なんて、容赦ねぇぐらいにドンドンと俺との差を付けてくれてんだぞ。


特に、その中でも眞子は、俺と同じスペックの筈なのに、たった1年で、あそこまで上り詰めやがった。


そりゃあよぉ。

そこだけを見りゃ、確かにアイツは、オマエさんの言う天才の類なのかも知れねぇよ。

けど、それ以上にアイツは泣き言も言わずに、必至に努力してきたからこそ、あの成果が残せたんだとじゃねぇのか?


そんな眞子を見ていて、なにも感じないか?

天才だとか、凡人だとか、そんなツマンネェ事を言う前に、そうやって『逃げない事』の方が大事なんじゃねぇのか?


それにだな。

幾ら他人に笑われても、そう簡単に『打倒崇秀』は諦めて良いのかよ?


そうじゃねぇだろ。

俺みたいなボンクラでも、まだまだ『打倒崇秀』を諦めてねぇって言うのに、俺なんかよりズッとセンスの良いオマエが、本心から『打倒崇秀』を諦められてるとは思えねぇ。


だからよぉ。

そんなツマンネェプライドの為に、大切なバンドを軽々しく辞めるとか言うな。


なにもかもを簡単に諦めてるんじゃねぇよ……この馬鹿タレがぁ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ♪<(_ _)>


倉津君、矢張り、相当無名を辞めさせたくないのかして、山中君に「本心」でぶつかっていきましたね♪


まぁ実際、倉津君の言う通り。

嶋田さんをはじめとして、遠藤さんや椿さんレベルの奏者なんて早々に居ないでしょうし。

なにより、あの行為は、山中君を切り捨てる為にした訳ではなく。

彼が【自発的にやる気を取り戻すのを待つ為の救済措置】みたいなものだったので、そこを汲み取って欲しかったからこそ、此処まで熱く語ってるものだと思われます。


倉津君自身の『無名に対する思い入れ』も高いでしょうしね。


さてさて、そんな風に熱く語る倉津君なのですが、その熱い想いは山中君の心に届くのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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