第3話 一歳の誕生日

 家族というものは俺が思っていたよりも温かいものだった。貴族なんて表面上の家族と言う言葉があるくらい、家族間での交流は少ない。年が離れ過ぎていたりすると自分の兄弟を一度も見たことがないなんてザラにある事だし、王族に関しては実の父親や母親に対してだって畏まらなければならない。そんな事2〜3歳の幼児にさせるなんて酷な事だと思うけど、それが昔からのしきたりなのだから従う他ないだろう。母親は子に乳をあげることすら許されず、まともな介抱もしてやれない。

 今この世界を知ってしまった俺はこのしきたりがあまりに酷いのではないかと思う様になった。それだけ大事に育てられているという事は自覚している。

 前世の俺だったら神に感謝を捧げていたところだが、まともに神もいなさそうなこの世界では母親に感謝を捧げる事にした。

「母よ。大切に育ててくれてありがとな」

上から目線だって?何百年と生きた記憶がある人間には30代なんて子供同様だぞ?

 それはさておき、今日は俺の一才の誕生日。なんだかんだ言って暇な人生を送っていたのでこの世界のパーティーというものに少しだけ興味がある。向こうの世界ではパーティーなんて日常茶飯事で、よくあるイベントごとだけど。この世界じゃパーティーなんてほとんど開かず、のんびりとした日常を過ごすことが多い。

 俺は基本的に周りの迷惑にならない様に1人で遊ぶか1人で寝るかしているが、いい子だと褒められる。正直に言って仕舞えば何百歳も生きたおっさんが赤子のように泣き叫ぶのはどうかと思うのだ。

 腹が減った。や眠い。などなどその他の理由で多少泣くこと以外では泣いたことがない。流石に、と思ってしまうからだろう。


「今日は涼の誕生日なのよ〜」


 と朝霞r何度も言われている。沢山の人が来て俺のことをお祝いしに来てくれるらしい。それでも、人数的に言えばそんなに多くなさそうだが……

 ま、向こうの世界と比べてはいけない、か。この家は一般家庭っぽいしな。最初はやけに小綺麗だから貧乏貴族かなんかかと思ったけど、普通に市民だった。


 母親はとてもご機嫌でご馳走を作っている。俺が狙っているのはチキン。あれはうまそうだ。スパイスが効いていそうなチキンだが、今まで俺は一度も食べさせてもらったことがない。何故なら、まだ一才だからだ。幼い為、まだ硬い肉を食べさせるのは良くないと思っているらしい。確かにそうなのかもしれないが、今日は俺の誕生日、駄々捏ねたら食べさせてもらえないかな。

 俺は作りかけのチキンに手を伸ばす。後ろに背負われていた為、母親ばそれに気がついたようだ。


「涼、チキンが食べたいの?」

「食べちゃい」

「うーんどうなのかしらねぇ。涼にはまだ硬いんじゃないかしら?」

「食べる〜!涼、食べるの!」

「う〜ん、じゃぁちょっとだけね。パーティー始まったら食べてみましょうか」

「うん!」


 なんとか交渉成立みたいだ。基本俺がしたい、食べたいと言った事はさせてもらえるので。この生活にとても満足している。リュクスの時に食べたことがない粥と言うのも食べたな。あれは美味かった。風邪をひいている時や体調が悪い時に食べたら良さそうな料理だと思う。それと、柔らかく煮た野菜も味付けが変わるだけでとても美味かった。リュクスの時に食べたが、その時感じたのは煮た野菜と味があっていないな。ということだけだ。まあ、王子様に作らせたのが悪かったのかもなぁ。アレンは基本なんでもできるけど、できないこともまぁまぁあるから。


「あ、そろそろ時間だわ」

「あぁ、涼、涼のおじいちゃんおばあちゃんが来てくれるだろう?お出迎えに行かないか?」

「うん?いく!」


 取り敢えず可愛らしく返事をしておけば大丈夫。これもこの一年でだいぶ学んだと思う。


ブロロロロ、とエンジンの音がする。きっと車?という乗り物できたのだろう。初めの頃、俺は馬車と魔法でしか移動したことがなかったので初めての乗り物に感動した。今になっては慣れてもきたけど。


「おはようございます。来て売れてありがとうございます」

「いいえ、いいのよ。私達の孫の誕生日だもの、あ、そうだ。涼くん、お誕生日プレゼント」

「あいがと」


 そう言って渡されたのは大きな箱、よちよち歩きの俺には大き過ぎて持てない大きさの箱だ。それをお父さんとお母さんに手伝ってもらって家の中まで持っていった。

 早速中身を開けた俺は驚いた。なんとパズル型のおもちゃが入っていたのだ。このおもちゃは孤児院や魔術学校でよく用いられるものだ。その理由は魔力を操作するのに必要だから。

 このパズル型のゲームは自分で球の道を作ってそこに球を転がすというものだ。それは魔法陣構築技術によく煮ている為、小さい頃に沢山このゲームで遊んでおくと将来有望な魔術師になれると言われている。必ずしもそうとは限らないが……


「しゅごい」

「あら、喜んでくれたかしら?それはよかったわ」

「あとこれも、これから沢山必要になるだろうし……」


 そう言って渡されたのは洋服だった。あまり気なれないスウェットやロンTだが、着てみて案外動きやすいことを知り、平民がこの格好をしている意味がようやくわかった。

 動きやすく、怪我もしにくいスウェットやロンTは畑仕事をする平民にとって欠かせない物であるということも。流石に冒険者などはちゃんとした装備をつけている事が多かったが、それでも中はおんなじ様な格好だった様な気がする。別に冒険者ギルドという組織に入り浸っていたわけでもなのでそんなに詳しいわけではないが。


 お、来たみたいだな。


 そう溢した父親は俺を連れてまた外へと向かい。挨拶をして、家の中へ迎え入れた。それがパーティーが始まる。合図のように少人数にしてはにぎやかな。パーティーが始まった。

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