第2話 幸せな家族

 恐らく生まれてから1ヶ月が経った。自分の体内の感覚でしかないのだから正確ではない可能性が高いが……

 この1ヶ月(仮)で分かった事がいくつかある。

 俺の前世、リュクスだった頃の世界とは別世界である事。

 また、この世界には魔力というものが存在しないという事。そもそも魔力を持っている人間がほとんどいない挙句、初級魔法すらまともに使えないような魔力量の者ばかりだった。

 俺が生まれたお見舞い?に来た人が沢山居たからその時に集めた情報だ。


 ま、今分かっている情報など高が知れているし、大した情報でもない為、レオナルドの使った魔法がどんな術式かを見抜くのはそう簡単ではないと思っている。

 俺の最終的な目的は元の世界に戻る事。第二の体で元の世界に戻ることになると思うから、二度目の異世界になるのか。自分のいた世界が異世界になるなんて不思議な感じだが、向こうの世界に帰れるのが楽しみで仕方がない。

 のんびりとした時間だ。そう思っていた矢先……


「涼、ご飯の時間ですよ」


 最悪な時間がやってきてしまった。そう、俺はこの時間が大嫌いだ。何故なら前世の記憶を持っている為、俺は人妻の裸体を見て、それに吸い付いていることになる。(勝手にそう思ってるだけ。自分の母親なので普通の事)その事に多少の罪悪感を覚えてもいるが、大半が占めているのは興奮。俺だって男なんだよ!仕方がないじゃないか!

 自分の親のおっぱいを見て興奮する。罪悪感を抱く。の繰り返しだ。仕方がない事だと分かっていてもアホだと思う。

 母の体を見て興奮する息子。俺だったら絶対に嫌だ。気持ち悪い。ま、母は気づいていないみたいだがな。良かった。良かった。


 ま、腹がいっぱいになって感謝はしてるけどな。

 ありがとよ。ママさん。


「涼は本当におとなしいのね。可愛いけどお母さん。心配になっちゃうわぁ」

「あーうー」

「あら、お返事してくれるの?本当に涼は賢いわねぇ」


 すごく穏やかな口調で。本当に優しそうな母だと思う。俺は初めての母という存在に戸惑いつつも母の望む子供になろうと思う。

 穏やかな性格ではない為、大人しくしているのは苦手だが、赤子になったせいで、体がまともに動かないんですよ。お陰で変な問題は起こしていないけど。


「あら、眠くなってきたのかしら?体が暖かくなってきたわ。涼おやすみ」


 どうやらあやしてくれるらしい。腕が疲れないのだろうか?ベッドに寝かせるだけでもいいのに……というか寝かしつけるとはベッドに寝かすのではないのか?

 と言った事件が毎日のように起きている。この世界と元の世界では大分常識が異なるようだ。

 早く慣れなくてはな。と思いつつそう簡単になれるものでもないのかもしれないとも思っている。環境の変化に対応するのは大変なことだ。どんなに小さな変化でも。それに対応できずに泣き者になるものも大勢いた。俺はそうならない為に頑張るつもりでいる。



***


SIDE母


「あら、眠ってしまったのね。今のうちにお料理と洗濯とお掃除を終わらせなければならないわね」


 早速取り掛かる事にした。何から片付けるか悩んだ末、料理から終わらせる事にした。起きてから料理をするのは危ないから。

 トントントンと心地よい音をさせながら野菜を刻む。そのうち涼が離乳食を食べる様になったら作ってあげたいわ。沢山食べて大きくなって。立派な大人になって貰わないとね。お父さん見たいに。

 今日はハンバーグがいいって言ってた様な気がするから和風ハンバーグでも作りますか。

 醤油をベースにしたタレは何度も失敗して研究したからそれなりの味でとても美味しいのよね。なんだかんだ言って。何にでも使えちゃうこのタレは万能なんだから!


***


SIDE父


 ちょうどお昼休憩か。今頃涼と奈々は何をやっているのだろうか?今日の朝、ハンバーグが食べたいって言ったけど、寝ぼけてたから覚えてるかな?ま、奈々のご飯は美味しいからなんでもいいけど、早く涼にも食べて貰いたいなぁ。それで、俺の嫁の飯はうまいんだぞって自慢しなくちゃな。


「なんか今日の課長機嫌良くないですか?」

「あ、最近息子さんが生まれたって噂だな。そのせいじゃないか?」

「おぉ、それで機嫌がいいのか」

「なんか課長の周りにお花が咲いてますもんね」

「ま、課長の幸せは俺らの平穏だからな」

「ハハッ、それが現実だから全くもって笑えないんですけどね」

「ま、しばらくは機嫌がいいんじゃないか?」

「そうっすね。しばらくは安泰っすね」


 周りでなんか言っているが、俺は今幸せだからいいのだ。お前らのその噂。今日ばかりは許してやろうじゃないか。


会社ですごく花を撒き散らしている父であった。


「お父さんお仕事はちゃんとやってね」これは家にいる息子のメッセージである。


***


「リュクス、僕、もうダメかもしれない。もうそろそろ魔力が底をつきちゃう。そしたら、この王国の守りは格段に落ちちゃうよ」


 やっぱり僕なんかが担える役職じゃない。こんなに過酷なことをリュクスは何百年と続けてきたなんてすごいなぁ。まだ数ヶ月しか経っていないのに僕は過労で死にそうになっているんだけど……

 リュクスから貰った薬はもう少し大きくなってから使いたいし、今は頑張るしか……

 そう思うとやっぱりリュクスが恋しい。僕の唯一の親友であり、僕の初めての師匠であり、僕の大好きな人。この役目は担ったままでいいからせめて隣にリュクスがいて欲しかった。


 そんな苦労も知らない民達は今日ものうのうと生きているのであった。

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