第1話 一度目の異世界

「ふみゃぁ、ふみゃぁ!」


 赤子の声……うっ、ま、ま眩しい……何が起きている、体が思う様に動かん……魔力は、無事な様だ。これさえあればどうにでもなる。


 まずは視力強化、眩しい挙句ぼんやりとしか見えないからな。


『視力強化』

「ふみゃぁ!」


 な、何!?こ、声が出ない……それに出るのは赤子の声……

 この思考時間はおよそ3秒。


「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」

「可愛い」


 か、可愛い?俺はイケメンだった筈では!?な、何が起きている。さっきクソレオナルドに変な魔法を掛けられ、何故かこんな所にいる。それに魔法名が口にできない!?魔法名を口にできなければ魔法は発動できない……何にもできないではないか!!!

 そもそも赤子になってしまったのか。俺は……

 前世ロクな人生を送ってこなかったのは間違えがない。だからと言ってこの仕打ちは酷いと思う。良い大人が誰かに抱かれて過ごすなど落ち着かないったらありゃしない。それも何百年と生きた魔術師であれば尚の事。


* * *


「ミルクですよ〜」


 何が起きているか分からない。俺はこうしないと栄養が取れないらしいが、親の魔力を分け与えるだけではダメなのだろうか?というか今魔力を与えなくては子供に魔力を宿すことはできないのではないか?

 やけに小綺麗な場所だが、王宮や貴族の屋敷といった煌びやかな感じではない。なんというかすごくシンプルだ。今まで俺がいた場所とは大違いで、何がどうなっているのか分からない。

 それと今まで気づかなかった自分は馬鹿なのか?と言いたくなるが。今俺の周りにいる人間は一切魔力がない。こんなに綺麗な場所で生活しているのにも関わらず魔力を持っていないなど大丈夫なのであろうか?そんな疑問を懐くが、そんな事は今考えている場合ではないとその思考を一蹴する。

 まずは自分の身に起きたことを整理しなくては何が起きているのか推測することもできない。

 まず、生まれたその日に気がついたが、俺は赤子に戻っていた。正確には新たな体を手に入れたと言ったところだろう実際のところ大人……老人が赤子に戻るなど聞いたこともない話だし、そもそも違う世界に来るなど聞いたこともない話だ。

 レオナルドは新しい魔術を作るのが得意だったからだろうか?いつも俺では思い付かない様なアイディアを出していたイメージがある。と言っても俺がレオナルドに関わった期間は半年程とあまり長くない為、想像の域を出ない。


「涼、ねんねするお時間ですよ。おやすみなさい」

「あーぅー」


 まだこんな情けない声しか出せないなど、なんたる屈辱。と言いたいところだが、そもそも声が出ないのでは何をすることもできないので、これは俺の一生の笑い話としてとどめておくことにする。まさか、「成長」の魔法すら使う事が出来ないなど知らなかったしなぁ……


「寝れないのかしら?大丈夫よ。私が子守唄を歌ってあげるわ」


 その間も俺は考えていた。目を瞑って。赤子だからか分からないがすぐに眠くなってしまい、いつの間にか深い眠りについてしまうので、考えごとをする時は目を開けている様にしている。ま、俺のお母様が「寝なさいと」言うのなら従おう。

 母親は目の肥えている俺から見ても美人だし、父親はドストライクと来た。まさに天国の様な家族だな。別に男しか好きにならないわけではないぞ?女も男も好きなだけだ。

 前世では家族との日常というものを味わった事がないのだ。家族との愛情というものも気になるしな。確かラーゲル王国の王子が家族はいいものだと言っていた様な気がする。

↑リュクスの人生は前世ということにした。

 彼の名前はアレンリウス・ランドゲル・ラゲール。アレンは俺の秘密の弟子であり、唯一の友人でもある。

 なんだかんだ言って楽しい日々を過ごしていたのだと思う。俺にとっては幸せな人生だった。


 そんなことを考えながら眠りについた俺はリュクスの時の夢を見た。



***


「其方は結婚しないのか?」

「不老である俺に結婚などできると思うか?それにあんなに辺鄙な森の中に住んでいるなんて言ったら大体のやつが気持ち悪いと言って逃げていくだろう?」

「それは一部の人間でしょう?リュクスは社交界で結構な人気を誇っているではありませんか」

「そうなのか……まぁ、17歳の時の容姿から何百年も変わっていないからなぁ。それなりにイケメンであることは理解してるし」

「ま、僕は森の中に住んでるのも大きな丸太の豪邸に住んでいるのもとっても楽しそうで興味があるけど」

「アレンにそう言ってもらえるだけで十分さ。王国側にも俺は碌な人間として記載はされていないから。本来の俺の姿を知らないのさ。知らないなら知らないでいいけどね」


 そういうこと言うから誰にも存在を気づいてもらえないんでしょ?最近なんて酷いものだよ。リュクスは知らないのかもしれないけど、厄災呼ばわりさ。年を取らない挙句強くて誰にも倒せない。何度も送った刺客は当然のごとく帰ってこなかったらしいじゃないか?

 確かに虫がいる。と思って潰してしまったけど……まさかあれが刺客だと思わなかった。と返したらアレンに笑われた。

 君は結構鈍感だからね。自分のことに関してだけだけど。

 そうなのかもしれない。確かに自分では気づいていない。それを鈍感というのだろうか?

 話がずれちゃったね。なんだかんだ言って君は嫌われてもいるし、好かれてもいる。どっちもどっちだ。僕はみんなと仲良くしてほしいけどね。



 目を覚ました俺は思った。だいぶ懐かしい夢を見たな。と。もし、平和な世界が続くのなら。この時の俺はなんだってする覚悟だった。

 アレンが言った家族というものを味わうとしよう。「自分で確かめろ」と言われてしまって、どんなものか具体的には語ってくれなかったからな。


 これからが楽しみだな。


 なんとなく抱いこの感想に若干驚く自分もいた。

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