3 藍﨑藍「私たちが奏でる音は」
百話 完結済 314,683文字
公開 2020/04/06
現代ドラマ
長編
吹奏楽小説……というよりは、コンクール小説と紹介した方がいいかも。いわゆる準強豪校にあたる高校吹奏楽部が舞台の、言ってみれば「響け! ユーフォニアム」を、より文芸的にリアル高校吹部っぽくした、「吹部に青春を賭けた若者たちの物語」です。でも、この言い方だと何かが足りないような気もするんですよね……。どう言えばいいのかな?
とにかくキャラの造形が深いです。何しろ吹部小説なんで相当な人数が出てきて、私なんかは実はあんまり関係とか把握できてないんですが、サブキャラ級の一人ひとりそれぞれにもほんとに魂が入っているって感じで、脇役っぽい人がいない。当然ながらと言うべきか、フォロワーさんの間でもそれぞれのキャラに色々とコアなファンがついておりまして、コメント欄を見流すのも結構楽しいです 笑。
書き手ご本人は中学高校と吹奏楽部だったそうなので、練習風景は細かなところまでとってもリアル。吹コンに熱心な高校ならではの、つい読み流しそうな小ネタも満載。そして、湾多的にはこれを強調したいんですが、演奏描写が素晴らしい。なんだかんだで音楽の実演をしっかり描き込んだカクヨムの小説ってあんまり多くないんですが、本作はその点、読み応えのあるシーンがいくつもいくつもあります。吹奏楽小説以前に本格音楽小説たり得ていると申しますか。
総じて群像劇っぽい構成でありながら、主人公の内面の変化とか成長が丁寧に描かれているところもポイントが高いです。加えて、後半になってにわかに強く薫り立ってくる恋愛小説要素! 決してラブラブでデレデレな話じゃない、むしろイタイタしくて、ヒリヒリしていて、でもこれが恋なんだねっていう、そんな空気感。色々とめんどくさい話ばかりで読んでてひたすらジリジリするんだけど、そこがいいというか w。
「響け! ユーフォニアム」みたいに、分かりやすい栄光とか熱狂とかとは微妙に違う、リアルレベルの希望と涙と笑いに彩られた、傷だらけの高校生ヒューマンドラマ。「尊い」という言葉が、これだけぴったりくる吹部小説は、そうそうないんじゃないかな。
ラスト一年分は、顧問キャラ視点の物語を並行して語る手法で、この分野には珍しい、高校生と若き教員とのダブル成長ストーリーになってます。たぶん、どこにでもありそうな部活動の風景を、ここでしか読めない物語に仕上げた、いわば王道吹奏楽青春小説とも呼ぶべき渾身の一作。ぜひお試しあれ。
→ 「私たちが奏でる音は」https://kakuyomu.jp/works/1177354054895039022
ポイント分析
コメディ要素 ***
泣ける要素 **
悶絶要素(イタさ・切なさ・初々しさなどで) *****
進学校あるある **
主人公、実は結構黒い性格? ***
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