第119話 ブレアの横槍
それは、次の合同講義の時に起きた。
「おい、お前ら」
ニールがピエルとマクスに対して声を掛けたのだ。
名前を知らないにしても仮にも先輩相手である。「お前」呼びである。それにしても不機嫌そうな声なので、一体どうしたというのだろうか。
「何でしょうか。いくらあなたの方が身分が上とはいっても、ここは学園ですから先輩と呼んでくれませんか」
ピエルがニールに言い返している。
「なんだと?」
当たり前の事を返したのだろうが、それが文字通りニールの逆鱗を掠めていた。
ピエルたちを険しい表情で睨み返していた。
この様子を見ていた俺は、ついつい見ていられなくなって間に割り込んだ。
「ニールさん、やめて下さい」
「止めるな、アリス・フェイダン。俺はこいつらを許せないんだ」
「一体何が許せないというんですか。二人はニールさんには何もしていないでしょうに」
歯を食いしばって二人を威嚇し続けるニール。俺がいくら止めても聞きそうにない。まったく、何がどうしたっていうんだよ。
それにしても、ニールの奴は怖いくらいにピエルとマクスの二人に敵意を剥き出しだった。フリードとジークたち教師連中は他の連中を相手にしていて、こっちに気が付いて……いや、気が付いていないふりをしてやがる。あいつら、ニールに関わるのをやめやがった。おい、お前ら、それでも教師かよ!?
まったく頭が痛くなってくる話だぜ……。
仕方ないので、俺は場を収めようとしてニールに話し掛けようとする。ところが、俺は誰かに止められる。
「いけませんわ、アリスさん」
止めてきたのはブレアだった。
「なぜ、止めるのですか、ブレアさん。このままではケンカになってしまいます」
「ですから、アリスさんが止めに入ると逆効果ですわ。ここはわたくしにお任せ下さいませ」
ブレアにそんな事を言われた俺は、何の事か分からずに首を傾げている。本当にわけが分からないのだ。
腕を組んで悩んでいる俺をよそに、ブレアはニールたちに近付いていった。
「なんだ、ブレア・クロウラーか。どうしたというんだ」
ブレアが近付いてきた事で、ずいぶんとニールが戸惑っている感じがする。
ニールに近付いたブレアは、顔を近付けてギロリと鋭い視線を向ける。
「女々しいですわね、ニールさん」
「な、なんだと?!」
ブレアにズバッと言われて、ニールが激高している。
「そうやってケンカ腰になるのはやめて下さいませんこと? わたくし、相談に乗りにきましたのよ」
「相談……だと?」
何を話してるんだろうな、ブレアは。ニールが構えたと思ったらすぐに解いてるし。くそっ、まったく聞こえねえ。
「アリスさんは鈍いですわよ。それに、ライバルはドラゴニル様ですわ。生半可な覚悟では太刀打ちできませんわよ?」
「なんだと……?」
ブレアに何かを言われて、ニールが後退っている。何をそこまで驚いているんだ?
「ピエルさんとマクスさんに嫉妬なんてしている場合ではありませんわ。ここだけの話をしておきますけれど、ドラゴニル様がアリスさんを養女にした理由は、自分の妻にするためなのですわ」
「な……に……?!」
ニールが驚愕の表情を浮かべてよろめいている。一体何の話をしてるんだよ。ブレアに任せろと言われて任せているけど、こうやって見ていると気になって仕方がないぜ。
「隙ありよ、アリス!」
ソニアが木剣で斬りかかってくる。ご丁寧に声に出すから、対処がすごく簡単だぜ。
ソニアの攻撃は意外と軽いから、片手でも簡単に止められる。
「なに?!」
「ソニア、相手はアリスですよ。そのくらいなんて事はないわ」
驚くソニアに対してセリスの方は動き回っている。俺の様子を見ているかのような動きだ。
しかし、それよりもブレアとニールのやり取りが気になって仕方がない。真横ではピエルとマクスも震えたままだし、本当に何が起きてるんだ?
「アリス、いくら強いからといっても集中を欠くのはいただけませんね」
セリスが俺の死角から襲い掛かってくる。隙だらけになってるというのに、死角からとは相当だな。
「甘いですね、セリスさん。その程度でこの私を崩せるとでも?」
「くっ!」
しっかりと受け止められて、驚きを隠せないセリス。俺はそれを払うと再びブレアたちの方を見る。
すると、話が終わったのかブレアがニールと別れてこっちへ戻ってきた。
「ただいま戻りましたわ、アリスさん」
「ブレアさん、一体何を話ししていましたの?」
「ふふっ、内緒ですわよ。それよりも、講義中ですのでしっかりと訓練致しましょう」
俺の質問をはぐらかすブレア。俺は不機嫌な表情をするが、ブレアはそれにはまったく動じなかった。
まったくもってうまく躱された感じはするんだが、俺はブレアを信じてそれ以上の追及はやめておいた。
「おい、お前ら」
「何ですか」
「俺とちょっと打ち合え。お前らも強くなりたいんだろう?」
「……分かりました。お願いします」
相変わらず強気なニールだったが、どこか雰囲気が変わったのを感じたらしく、ピエルとマクスの二人はその申し出を受け入れたのだった。
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