第116話 違いがありすぎる戦い
フェイダン公爵家の傍流であるクロウラー伯爵家とファフル伯爵家。
領地の位置関係としてはかなり離れてはいるものの、ドラゴンの血を引く一族として交流は続いていた。
だが、フェイダン公爵家と領地を接するクロウラー伯爵家とは違い、かなり遠くに飛ばされてしまったファフル伯爵家は、フェイダンの血筋への復帰を強く願うようになっていた。
その願望が、今代の当主の息子であるニールにも強く受け継がれているようだった。
だが、今の俺にとっては素晴らしく迷惑でしかなかった。あいつの顔を見ただけでイライラしてくるんだよ。
そんなニールだが、今はブレアと睨み合っている。先日の模擬戦でもかなり激しかったから、今回はそれを上回ってくれそうな気がするぜ。それこそ、訓練場が崩れないといいんだがな。
「くれぐれも訓練場を破壊しないで下さいね。分かりましたか?」
フリードはもう完全に諦めているようだった。ものすごく力を入れて説得しようとしているが、もう表情が伴っていないもんな。うん、時には諦めも必要だよ。
さすがの俺もフリードには同情せざるを得ない。
それはともかくとして、注目の一戦が再び始まろうとしていた。
「始め!」
フリードの声が響き渡る。
それと同時にブレアもニールも互いに飛び込んでいく。
俺と剣を交えた時と同様に、木剣だというのに金属音が訓練場内に響き渡る。この音を聞くと、俺たちがいかに常識から外れているのかを思い知らされるというものだ。
(うーん、何回聞いても恐ろしい音だよなぁ。これが木剣の音なんだからな……)
思わず唇をうねらせて糸目になってしまう俺だった。
(先日も思ったが、この二人は結構実力が均衡してるんだよな。体力が続く限り、終わらねえんじゃねえのか?)
じっと二人の戦う姿を眺めている。
ドラゴンの血を引く二人の動きは、もう同年代の身体能力を超えた何かになっていた。多分、動きを追えているのは俺と教師陣くらいだろう。他の連中は響く金属音でどうにか位置が分かるくらいだと思う。……金属音ってなんだよ。
動きがだいぶ常人離れをしてはいるものの、訓練場には被害がないのが凄いな。どうやら先日の反省が活きているようだ。
「思った以上にやりますわね。生意気なだけかと思っていましたわ」
「ふん、そっちこそな。フェイダン公爵家のお飾りかと思っていたぜ!」
この戦いの中でさらに煽り合う二人である。おい、やめろ。
ただでさえここまでもかなり激しい戦いをしてるというのに、煽り合ってこれ以上激化させるつもりかよ。俺は見ていて頭が痛くなってくる。ドラゴンの血族って、仲が悪すぎんじゃねえのか?
それにしても、結構な時間戦っている割に終わる気配がない。それだけ二人の実力が競っているという事だろう。
「ふん、女と思って甘く見ていたが、アリス・フェイダンもそうだが、なかなかやるな!」
「そのアリスさんとしょっちゅう剣を交えていますのよ? 甘く見てもらっては困りますわね!」
まだ喋る余裕がある二人だった。ドラゴニル同様に、この二人も大概な戦闘狂だったらしい。
相変わらず剣をぶつけては離れ、剣をぶつけては離れの繰り返し。互いを警戒してか、剣を押し合っての睨み合いは避けているようだ。おそらくはドラゴンの勘がそう告げているのだろう。
ある程度打ち合ったところで、互いに距離を取って動きを止める。さすがに消耗しているらしく、二人とも肩が大きく上下していた。
次の瞬間、大きく空気が変わる。
二人揃って大きく踏み込んだのだ。どうやらこれで決めるという事らしい。
……これって模擬戦だったよな?
俺がふと思ったところで、ブレアとニールが衝撃波を発生させながら激突する。
ぶつかった瞬間、もの凄い大きな音が響き渡り、二人の持っていた木剣が粉々に砕け散ってしまった。さすがに木剣では二人の力に耐えきれなかったようだった。
「あらあら、武器が無くなってしまいましたわね」
「……そのようだな。これでは戦えないな」
顔を向き合わせた二人は、不敵な笑みを浮かべていた。やれやれ、最後まで戦闘狂の顔をしてやがる……。
「……お前ら、これで気は済んだか?」
ブレアとニールに声を掛けたのは、後ろで待機していたジークだった。そのジークをしてもとんでもない戦いを見せられて、実に困惑気味に声を掛けていた。
「ええ、十分ですわ。やはり思い切って力が振るえるというのはいいですわね」
「まったくだ。それに関しては気が合うな」
にやりと笑ってお互いの拳をこつんとぶつけ合うブレアとニールである。はあ、なんだかついていけねえ……。
模擬戦が決着して、ブレアは満足したように俺たちのところへと駆け寄ってきた。ただ、さすがに疲れているのか足取りがどこかおかしい。
「あっ」
「あ、危ない!」
ちょうど目の前に居たので、足がもつれて倒れそうになるブレアを受け止める。
「まったく、そんなになるまで力を振るうんじゃないですよ、ブレアさん」
「ありがとうございます、アリスさん。……反省致しますわ」
疲れ切ったブレアを、俺は訓練場の壁際まで連れて行って休ませた。
「まったく、熱くなりすぎですよ、ブレアさん」
「本当、その通りですわね。お気遣いありがとうですわ、アリスさん」
ブレアはそう言うと、壁にもたれ掛かってゆっくりと呼吸を整えたのだった。
結局のところ、ドラゴンの一族というのは厄介な連中ぞろいだという事を再認識した一日だった。
その弊害は酷いもので、その後の他の学生たちの打ち合いがどうにも身の入っていないものに感じられるほどだった。これはもう俺たちの打ち合いは見せない方がいいなと、真剣に思った俺だった。
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